左から、加藤一二三九段、渡辺明二冠(撮影:本社写真部)
本日、棋聖戦第4局で渡辺棋聖に勝利し、藤井聡太七段が史上最年少でタイトルを獲得した。今年4月、渡辺二冠は加藤一二三九段と「令和の将棋」について語り合っていた。その中で触れた藤井聡太棋聖の「平常心」とは。

※本稿は、『天才の考え方 藤井聡太とは何者か?』(加藤一二三・渡辺明/中央公論新社)の一部を、再編集したものです

藤井聡太と「平常心」

渡辺 加藤先生は藤井聡太七段のデビュー戦で対局されたわけですが、どのような感想をお持ちですか?

加藤 藤井さんとの対戦にあたって、こちらが研究しようと思っても、藤井さんの棋譜は一局しかなかったんです。それで実際に戦ってみると、藤井さんは研究派なんだな、とわかりました。藤井さんはぼくの得意な矢倉に合わせてきたので相矢倉になりましたけど、これまでに何度かぼくが手を焼いていた作戦があって、それを分析していたようでしたね。その作戦を仕掛けてきたんです。その中でぼくにも一回だけ勝つ局面があったんですけど、それを逃して完敗しました。

ぼくは若い頃から序盤については緻密な研究はしないし、作戦にこだわらないんです。中・終盤を重視してるんですね。でも藤井さんは、ぼくがあまり成功していない作戦をぶつけてきたので、これは本当によく研究しているな、と感心しました。

渡辺 それも強さの一つなんでしょうね。あの将棋はたしかに彼がよく研究しているのがわかったし、歴史的な対局になったように思います。見ている側としてはすごくおもしろい将棋でした。

加藤 藤井さんの場合、性格もなかなかユニークなんですよね。対局後のインタビューで彼は、ぼくがおやつを食べる仕草について「かわいらしかった」と話したんです。これには仰天しましたよ! 先輩をかわいいと評する棋士なんて、これまではいませんでしたから。あと、彼は対局中、自分もおやつを食べていましたが、ぼくが食べはじめるのを待って、間合いを測りながら食べはじめたんですね。それにも感心しました。

藤井さんは、羽生善治さんとの対局前に「楽しんで指したい」と言ったでしょ。ああいう言葉なんかも驚きですね。ぼくも若い頃からスゴい先輩方とぶつかってきたわけだけれども、楽しむという感覚はなかったですよ。「平常心」とか「気負わずに指す」とかいった言葉を聞くと驚きます。ああいうのはどう思われますか?