「どうしようかなあ。……唯は、ママが目の下のくまや顔のしみを気にしてコンシーラー買いまくってるのと同じじゃん、なにが違うのって言ってる」
「あ、意外な角度からパンチが来た。えー、くま気にしてるんだ。ぜんぜん気にならないよ?」
「ありがとう。優しさに感謝……」
「コンシーラー欲しくなるのわかるう。あと私、最近、自分の寝起きの顔がマジでゾンビみたいに血色悪く見えてきて、ひたすらリップ塗ってる。加齢と共にリップの色が濃くなってる」
みのりが同調し、圭子は意外そうに目を丸くした。
「そう? みのりの顔色も、悪いって思ったことないけど」
「すっぴんだとすごいんだって、ほんと」
「そっかあ……腕の毛を気にしなくなる年齢になると、今度は加齢に抗わなきゃって焦る。いつまで私たちは苦しみ続けるんだろうね」
いわゆる「日本のかわいい女の子」のイメージが子供の頃から性に合わなかったという圭子は、海外駐在経験もあってか、規範に合わせなければという気負いが自分よりも希薄であるように綾香には見えた。だから問題を自分に引き寄せるのではなく、遠くから分析するような話し方をするのだろう。
圭子の俯瞰的な呟きに、綾香ははたと膝を打った。
「ああ、それかも。唯と話しているときに思ったこと。生きやすい世の中になってきたって思ってたし、自分なりにその時々で頑張ってきたつもりだったけど、結局私は、次世代の子供に、自然な状態のその子の体を恥ずかしいって思わせるような社会を引き継ぐんだなーっていう……悲しみ? 悲しいのかな? なんか……悲しみと悔しさが混ざった、もやもや」
「おお」
「話題が重い」
「でも私だって夏は腕の毛剃ってるし、目の下のくまは隠したいし、たぷついた二の腕の三分間引き締めエクササイズしてるし……だから、ママだって同じじゃんって言われたらうまく説明できなーい」
「できないよそんなの。とりあえずいいコンシーラー見つけたら私にも教えて」
食べ終わった蜜柑の皮を弁当袋にしまい、腕時計を確認したみのりが腰を浮かせた。綾香と圭子もそれに倣う。
「加齢を愛したいものだねえ」
「でもやっぱり寝起きのゾンビはぎょっとするって」
階段を下りながら、圭子とみのりは話し続ける。同期二人の背中を眺め、綾香は屋上の扉を閉めた。
