老いていく頬を見ていて

顔を洗えば水はわたしを彫りおこすそのことだけがするどかった秋の

「そのことだけがするどかった秋」、逆を言えば、それ以外はまったく鋭くなく、あいまいにすぎていってしまったのでしょう。その怒りも感じながら、「水はわたしを彫りおこす」と洗顔を表現する主体には、何か体感のカタルシスがあります。水に彫られるようにあらわれる、このわたし。この秋はかろうじて、悶えながらここにいる、このわたし。

一生、と口にするとき現れる滝のきらめききらめくだけの

この時代、一生、と口にするときの無常もまた作者は突いています。3年後、いや1年後だってわからない社会情勢。一生を決めたり誓ったりすることは自己満足かもしれません。でも、なんて美しい言葉なんでしょう。一生。そのきらめくだけの滝の快楽。
 
そう、一生なんてどうなるかわからない。でもこうして出会ったのだから、注意深く、でも慈悲深く、二人でこの世を渡っていきたいわとお嬢様は言います。キラキラのネイルも、華やかなお洋服も、しばらくは我慢。それより旦那様と恋の次の段階の、信頼関係を築いていく方が、ずっと胸に温かく、堅固なものなのでございましょう。愛の恋のとうつつを抜かしていた頃のお嬢様も素敵だけれど、お嬢様はどうやら次の段階に登られたようです。老いていく頬を見て、見られて、その姿を夏に晒しあって、白髪をくしけずる仲へ。人生は長いようで短い。わたくしめ、ずっとついていきますぞ!

今回ご紹介した歌人

大森静佳(おおもり・しずか)
1989年岡山県生まれ。「塔」短歌会所属。岡山朝日高校在学中に短歌を作りはじめ、大学在学中の2010年に角川短歌賞を受賞。歌集に『てのひらを燃やす』『カミーユ』『ヘクタール』がある。

【関連記事】
時代も性別も世代も超えて、あたらしい声が聞こえる
恋する胸にド直球。ピュアで危うげなあの頃を追体験せよ
辛いときこそ、小さな事件を楽しむパワー! 違和感は自由への扉