
辛いときこそ、小さきものに楽しみを見出すパワー
レーズンパンのレーズンすべてほじりだしおまえをただのパンにしてやる 戸田響子
まったく、最近のお嬢様はM−1グランプリに夢中。S N Sへのポストもご友人との話題も、そればかりでございます。お下品かなと思うお笑いも、とても楽しんでいるご様子……。むむむ、これはいったいわたくしめはどういたしましょう。お嬢様の趣味といえば手芸、乗馬、お菓子作り、ドレスアップ、この辺りが妥当でございましょうに、お下品なお笑いからまったく目を離さず、録画映像を何度も再生する始末。ほとんどお笑い中毒。他にもっとできることがありましょうに、帰ってきたら片手に缶チューハイ、片手にポテトチップスで、ネグリジェならぬダル着で録画のM−1にかじりついておいでです。
ここは、ここはわたくしめが注意しなければならないでしょうか……。もちろん、お嬢様は自立した女性。好きに過ごすことをこちらから指図するのはいかがかと。でも……でも……あまりにお下品!
えっと……おっほん、あの、お嬢様、大変差し出がましい意見ではございますが、そこまでお笑いにハマるのはいかがなものかと。その大学時代の文化祭のダルダルになったTシャツもできれば捨てていただきたく。いつも通り、ゆっくりアロマの入ったお風呂に浸かり、ボディーマッサージをされてはいかがでしょう。お仕事も今はずいぶんお暇な様子。前でしたらボディーケアを終えて片付けていたお仕事の資料も放りっぱなし。これはいかがなものかと……どうでしょう、ここらでちゃんとしたお嬢様に戻っていただきたいのですが……む? むむむ! どうしたのでしょう!! お嬢様が涙を流しておいでです。私の言い方はきつかったでしょうか。え? なに? 仕事が異動になったですと! 今の部署、大変楽しんでおられたではないですか?! 異動なんて……そんな酷なことがあっていいのでしょうか……え? 会社の都合上仕方ないと? とはいえあまりにも酷な……お嬢様の悲しみは測りきれません。だから笑える番組にハマっていたのでしょう。笑いは確実に人の心を軽くしてくれますからな。
そんなお嬢様に、こちらの歌のお振舞いです。
まるでお笑いミームのような一首。レーズンをほじり出したところで残るのはただのパンではなく、ボロボロになったパンです。それにしても、宇宙大魔王のようなこの口調、ただものとは思えませんが、やっていることはごくささやかなこと。この落差に思わず笑ってしまいますな。
そう、辛い生活ほど笑いが大事。大事件より小事件に楽しみを見出すことで生きるパワーをもらうのは、短歌を作ることにおいても、普段の日常生活においても、大切なことでございます。ちょっとした「フフフ」は、生きる力でございます。
