ツキノワグマとの遭遇

ツキノワグマの例としては、日光の山でのできごとをあげる。見晴らしの悪い急斜面を登って、開けた場所に出たところで、子グマ2頭を連れた母グマとばったり遭遇してしまった。10メートルほどの距離だったと思うが、気づいた瞬間に母グマは突進してきた。母グマはそのまま私のすぐ脇をすり抜けるようにして走り去り、幸運にもことなきを得た。なんとかクマ撃退スプレーは構えたものの、「間に合わないかもしれない」と思うほど一瞬のことだった。

結果としてこれはブラフチャージ(脅しのため、危険回避のために偽の攻撃をすること)だったが、突進に至るまでの時間がほとんどなく、このツキノワグマはなにかを判断する猶予もなく、反射的な行動だったのではないかと私は考えている。

(写真提供:二神慎之介)

これは人間側の対処は追いつかないほどの唐突さだ。私からすれば怖さを感じる時間もないくらいの一瞬のできごとだった。そこにクマの意思表示、もしくはコミュニケーションはまったく存在しないようだった。

あくまでこれは私個人の経験による一例である。この体験だけでヒグマとツキノワグマの違いを断言することはとうていできないが、これまでの私の経験や見聞きしてきた事例では、全体としてそんな傾向があるように思える。

知人に聞いた話だが、釣りをしていて突然現れたヒグマにずっと後をつけられたことがあったという。人身事故にこそ至らなかったが、大きなヒグマがじわじわと距離をつめてくるあの感覚は恐怖以外の何物でもない。