滝藤賢一が難役を熱演
さらに大きな拍手を送りたいのが、滝藤賢一の熱演。1977年度版で山崎努が熱演し、フィギュアなどにもなっている田治見要蔵をどう演じるのか。これには日本中が注目しているはずだ。滝藤が2役で演じている要蔵の息子・久弥の病床での異様な目と言ったら ! そのシーンを観た時から、私の心は高鳴った。「この人はきっとすごい要蔵を演じる」
その予感は的中した。77年度版要蔵は、ただただ恐ろしかった。そして自らの狂気と、愛人(寺田辰弥の母)鶴子への恋情に引き裂かれるようにして滝つぼに身を投げる。
情念の塊である。この難役を、滝藤はまた違った解釈で演じきった。ポスターになっているので書いてしまうが、桜の木の下を走っていくその姿がまず幽玄で美しい。顔から外れて揺れる能面の美しさと、狂気の形相の対比。見事に計算された清水監督の演出が光る。このシーンを観るためだけにでも、映画館に足を運ぶべきだ。
そして恐ろしい大量殺戮の後、本作でも要蔵は鶴子と幼い辰弥に迫る。わが子を守ろうと要蔵の手にかぶりつく鶴子。その母としての情熱が唯一の、そして強く焼き付く母の愛の表現だ。その母の愛が、炎の中のわずかなイメージでしか辰弥に伝わらないのは惜しい気もするが、余計な説明をするより、あのくらいの方が心に残ったのも事実。そして要蔵はやはり、滝壺へと落ちる。最も強いものが、最も弱いものに敗北するシーンだ。狂気に取りつかれようと、「愛されなかった男」は最も哀れな敗者なのである。
イラスト提供:さかもと未明さん
滝藤賢一は、かのドラマ『半沢直樹』で、半沢を裏切る近藤直弼を熱演、強烈な印象を残した。陰のある、或いは狂気をはらむ人物を演じさせたら、ナンバーワンだろう。まさしくはまり役である。
