彼の成功を、私は喜べない
知っている名前ばかりの小さな世界で、「いつか売れる」と同じことばかり話していた人が、いつの間にか、たくさんの私の知らない人たちに囲まれて仕事をする人になっていった。SNSのフォロワーも増えて、たまに街で声までかけられるようにもなった。あの人「隣にいる冴えない女、誰?」って思ったかも。
「ありがとう。ナミが支えてくれたおかげだよ」
嬉しそうな彼の顔を見ながら、私は笑った。
「よかったね。だから言ったじゃん」
でも、その笑顔の奥のどこかで、ザラッとした感情が生まれていた。
「インタビューされたよ、記事は◯月に公開されるって」
「今度はこんな役が決まったよ」
「すごい熱狂的なファンの子がいてね」
彼から嬉しい報告を聞くたびにイライラした。インタビューは見たくなかったし、ファンの話なんて聞きたくもなかった。
よかったね、業界人みたいだね。才能ある刺激的な人たちに囲まれて、さぞ毎日楽しいんでしょうね。きっと私には見せないような笑顔してんだろうね。打ち上げでキレイな女優さんと仲良くなったり、かわいいファンにチヤホヤされたりして、私のことなんてもう要らなそうだね。
売れない間、ずっと私が支えてきたのに……。
いつだって夜中まで電話で励ましたし、オーディションに落ちて凹んでいる日には家まで駆けつけたし、チケットも一人で何枚も買ったし、舞台は何本も観に行った。
一緒に「絶対に売れるよ」と笑ったことなんて、そのうちきれいさっぱり忘れるんだろうね。
実際に蔑ろにされたわけでもないのに、勝手に妄想してどんどん卑屈になっていってしまった。また暇な彼に戻ったらいいのに……とまで思ってしまい、頭をブンブン振ることもあった。
なんて最低なんだ。あんなに望んでいた彼の成功を、私は喜べない。
「すごいね。頑張ってよかったね」と無理やりに笑顔を作って対応することが苦痛で仕方なかった。気持ちを拗らせた私と、忙しくなった彼は次第にすれ違っていき、しばらくして別れることになった。
