紙に書く、手を動かす

デジタル化が進んでいる中で、あえて「手書き」を勧める声が増えています。

作家で元外務省主任分析官の佐藤優さんは、コクヨの大学ノートに日付順にすべてを書き込んでいくという方法で有名です。ジャンル別に分けるのではなく、「その日に何があったか」をひたすら時系列で書き続ける。スケジュールも、覚書も、取材メモも、すべて一冊の中に時間順に書いていく。

(写真提供:Photo AC)

「あの人と話したのはいつだったか」と思ったとき、ノートを繰っていくと日付が出てくる。「あの打ち合わせのあとで思いついたこと」が、そのページに残っている。アナログの蓄積が、検索では出てこない「文脈」を保存してくれる。

私も取材の際には大学ノートを使っています。見開きで左側に聞いた話のポイントをメモし、右側に「それを聞いて自分が感じたこと」「生じた疑問」「話者の表情の変化」などを書き添える。あとから読み返したとき、左側のメモだけでは思い出せないことが、右側の走り書きで蘇ることがあります。

NHKでの特集番組の制作では独特の方法を使っていました。撮影してきたすべてのカットをカードに書き出して、大きなボードに貼り付け、順序を入れ替えながら番組の構成を作っていくのです。プロデューサーが部屋に来て全体を見渡し、「ここはこう入れ替えたほうがいい」とカードを動かす。スタッフ全員がその場で「見える化」された情報を共有して、構成を磨いていく。

パソコンの画面では一人ひとりの作業になりますが、物理的なカードをボードに貼り付けることで、「全体を俯瞰する」ことができた。この「見える化」の経験は、私の思考法の基礎になっています。

手を動かして書くことは、単に記録を残す行為ではありません。書く動作が、思考を整理し、記憶への定着を助けるという研究結果は多くあります。スマートフォンでタイピングするより、手書きしたほうが記憶に残りやすい。これは脳科学的にも裏づけられています。