「どこかで見た感じ」がまるでない
さて、ある日クラークは、自分の家具店の壁の一部に不思議な光を発見する。その部分に触れると、なんと彼の身体は壁の「向こう側」へと通り抜け、タイトル通りの「バックルーム」と呼ぶべき空間に入り込むーーー。
この筋だけなら、何十年も前から使い古されたSFの「パラレル・ワールド」もの。「精神分析」ものだって半世紀も前から、掃いて捨てるほどある。しかし、この『バックルームズ』はそれらとは全く違う。「どこかで見た感じ」がまるでないのだ。
壁を通り抜けるという映像表現も自然に受け入れられた。それはおそらく「向こう側」にある『バックルームズ』のセットが、実によくできているからだろう。
どこまでも続く薄い黄色の廊下。影がないわけではないが、廊下も部屋も天井からのライトで、奇妙な明るさに満ちている。この空間の中にいたら「夜」が永遠に来ない気がする。そして、異様に巨大な空間を持つこの『バックルームズ』では、いつも遠くで何か不快になるようなノイズが聞こえている。人影はまるでなく、クラークの激しい孤独と不安を掻き立てるかのように、時々照明が不安定に点滅する。何かを見つけると、夥しく積み上げられた椅子や、堆積物のように積み上げられたような洋服、生活用品、時に上下感覚を失わせる穴やねじれた階段…。そこから抜け出す方法は判らず、クラークは益々混乱する。
