明日海りおさん直筆の言葉
「それでも私は闘う 様子を見ながら朗らかに…」

初めての経験に極度に緊張してしまい

3歳からバレエを習っていて、幼い頃から舞台に立つことは好きでした。毎年の発表会では、素敵な衣裳とメイクで舞台に立ち、拍手を浴び、花束をいただいて──。それに、劇場空間そのものも好きだったので、子ども心に将来はこの劇場で働きたいな、なんて思っていました。

宝塚に入りたいと思ったのは、中学3年の時です。バレエ教室のお友達に借りたビデオで宝塚の舞台を初めて観て、衝撃を受けると同時に、すっかり心を奪われました。カラフルな衣裳、舞台装置、そして華麗な歌とダンス……。けれど、両親に宝塚音楽学校を受験したいと言ったら、すごく反対されて。

ここで諦めたら一生後悔すると思い、部屋に閉じこもり、あてつけのようにできるだけ大きな声で何日も泣いて訴えたんです。それまで私は、何かほしいものがあっても駄々をこねることはほとんどなかったので、よほどのことだろうと、最後は両親が折れてくれました。今思えば、娘を静岡から送り出して宝塚の学校へ通わせるなんて、親にとっては大変なことだったはず。ワガママが言えた自分は幼かったのだなと思います。

入団以来ずっと、「宝塚がすべて」という気持ちでした。ですからいざ退団したら、何をしたいと思うのか、何かをしたいという気力が残っているのかさえ、実際にその時になってみないとわからない、と思っていました。

そして、退団後に新しい事務所に入り、これからのことを考えているちょうどその頃、ディズニーの実写版映画『ムーラン』の、吹き替えのオーディションのお話をいただいたのです。『ムーラン』といえばディズニー・アニメーションの傑作。主人公のムーランは、女性でありながら男装して兵士として闘う役柄なので、長年男役を務めてきた私にぴったりかもしれないと思い、なんとしてもムーラン役を勝ち取りたいという気持ちでオーディションに臨みました。

ところが吹き替えは初めての経験ですし、舞台の芝居とはまったく違います。そのため極度に緊張してしまってうまくいかず……悔しくて、涙がにじんでしまいました。ですから決まったというお知らせをいただいた時はびっくりしましたし、本当に嬉しかったですね。

ムーランの人物像はとても魅力的。何より尊敬するのは、家族思い、親思いのところです。私は両親のおかげで宝塚に飛び込めたのに、まだまだ親孝行できていないなと反省しました。

実際の収録では、最初のうちは少女の声で演じるのが恥ずかしくて──。「明日海さんの自然な地の声で」と監督からアドバイスをいただくのですが、男役としての自分の声に慣れているので、これがなかなか難しいのです。映像に合わせて台詞を乗せるには、反射神経も必要。試行錯誤するうち、徐々に映像の中のムーランと呼吸が合うようになり──かけ声や息遣いなどを発するアクションシーンでは爽快感を味わえました。

今回、退団後初のお仕事で、まったく未経験のことに取り組んだことで、「新しい人生が始まった」という思いをより強く感じた気がします。いい再スタートを切れました。