歯科矯正してる子はかわいそうと思っていた
小学生のころ、歯科矯正の金具をつけている子がちらほらいた。あの頃は、煩わしそうだな、かわいそうだな、なんて思っていたが、とんでもない。親の十分な経済力と知識によって先行投資をされていたあの子たちの方が、断然幸せだったのだ。
私も矯正していたかったが、貧困に喘ぐ我が家にそんな高額な費用を捻出できる余裕などあるはずもなかった。我が家ではデンタルケアへの関心が致命的に欠如しており、いまや御法度とされる「虫歯を持つ親が噛み砕いた離乳食」を与えられて成長したくらいだ。その結果、虫歯菌をしっかりと受け継いだ最悪な口内環境が見事に完成している。
いや、親のせいにするのは卑怯だ。大人になってから治すチャンスはいくらでもあったのに、目を逸らし続けた自分の怠惰が一番の罪だ。
もし歯並びが綺麗だったら、どんな毎日なんだろう?
面白いときや嬉しいときに口元を隠す必要もなく、大きな口を開けて特大スマイルを作れただろう。他人の目を恐れて先回りしたり、他人の言葉を深読みして勝手に傷ついたりすることもなかったかもしれない。
写真に写る自分を見て絶望することも、他人の生まれ持った骨格や親の経済力にドロドロとした嫉妬を抱くこともなく、当たり前のように自分の笑顔を愛せる人生だったんじゃないだろうか。
この歯並びさえ良くなれば、もっと堂々と自分を愛せるはずなのに。もっと世界から肯定されるはずなのに。
物理的な美しさを手に入れることでしか自分を許せない息苦しさは、決してドラマの中だけのフィクションではない。
