コンプレックスから解放された体験
一度、コンプレックスから解放された体験をしたことがある。
私は子どもの頃、ひどい天然パーマだった。チリチリした天パで細く柔らかい髪の母と、極太の超剛毛ウェーブがタワシのようにびっしりと生えた父との間に生まれた私は、天パのサラブレッドだ。
毎日鏡をみてゲンナリしてはひっつめ三つ編みで天パを隠し、サラサラ髪の同級生たちに強烈な嫉妬を抱いていたが、高校入学直前に初めて縮毛矯正を体験して世界は一変した。
朝、寝癖を直すだけでストレートヘアの人間と同じ地点に立てる。たったそれだけのことで私の性格は目に見えて明るくなり、世界がそれまでと違って輝いて見えた。
コンプレックスが物理的に削ぎ落とされると、内面まで見違えるほど健やかになることを、私はあのとき知ったのだ。
だからこそ確信している。もしこの口元が美しかったら、もっともっと毎日が楽しく、素晴らしいものになるはず!
よし! 40代で今さら……とかうるさい! 今からでも直そう!
先日、私はようやく審美歯科の扉を叩いた。
大理石のカウンターにシャンデリア、ふかふかのソファー。やはり普通の歯科とは色々と違う。
そこで待っていたのは、若くてイケメンな歯科医だった。ついに長年のコンプレックスとおさらばできるのだと、私は期待に胸を膨らませて診察台に座った。
さあ、新しい自分に生まれ変わろう! いくらでもローンを組むぞ!
