今だからこそ、新しい試みを

私には兄が1人、弟が2人います。上の弟はアメリカのロサンゼルス在住。彼は母が脳梗塞で倒れた直後にロスから駆けつけましたが、しばらくして母の状態が落ち着いたのでアメリカに戻りました。けれどその後すぐに、アメリカでコロナの感染が拡大して。日本も海外からの入国を制限し、弟の再度の帰国は難しくなっていました。

日本にいる私にしても、母の状態を知るすべは、病院との電話でのやり取りだけ。会えないというのは何とも不安なもので、担当医や看護師長さんから話をうかがっても、「とりあえず大丈夫そうだ」といった感じで、常にモヤモヤしたものを抱えていたんです。

そんななか、病院に“リモート面会”を提案したのは、ロスの弟でした。モバイル端末をオンラインでつなぎ、画面を通して母に面会することはできないか、と。

その報告を弟から聞いて慌てましたね。今、病院は院内感染対策でピリピリムード。目の前のことだけでも手いっぱいの時期に、そんなワガママな申し出は迷惑極まりないはず。対する弟の言い分は「今だからこそ、やるべきじゃないか」。ここで姉と弟のバトルが勃発しました。

けれど、ありがたいことに病院側は弟の提案を院内で検討し、実現してくださったのです。LINEのグループビデオ通話機能を使って病室とつなぎ、ベッドで寝ている母とリモート面会が実現しました。

私のスマホ画面に映った母の反応は鈍いけれど、ちゃんと生きている。動いている。その姿を実際にこの目で見るのと見ないのとでは、何と大きな違いがあることよ。「母さ~ん、佐和子だよ」と呼びかけながら、心から安堵しました。

驚いたことに、病院からは「こんな時だからこそ、新しい試みに取り組むことが必要でした」と言っていただいて。後日、同じ病院にご両親を預けている友だちからも、「私もリモート面会をさせていただいたの。嬉しかった」と連絡があり、実行してよかったと思いました。