「子ども心」を忘れない人が社会で求められる

若宮 私は高校を卒業してから60歳で退職するまで、銀行勤めでした。でもまったく銀行員「らしく」なかったのですね(笑)。お札を早く正確に数えることもできない落ちこぼれ。有給休暇を取っては、ふらふら海外へ行くし。けれどそのうち銀行でも、計算業務は機械がするようになりました。すると私みたいな、新しいもの好きな人間が、営業や企画の分野で重宝されるようになったのです。

茂木 AI(人工知能)が進化すると、事務的な作業は機械がやってくれるようになる。その時、人間が担うのは、コミュニケーションや創造的なこと。つまり「遊び」に近い。好奇心や冒険心といった、「子ども心」を忘れない人が社会で求められるようになる。その意味でも、若宮さんはパイオニアだったんですね。

若宮 そうですか。私が変わったというより、周りが変わった印象です。

茂木 アメリカの大企業が今最も欲しがる人材は、オンラインゲームで複数のユーザーと協力し合って一つの目的を遂げる、戦略ゲームの達人だそうです。僕の友人の息子にも、数百人のユーザーを指揮する有名な将軍役がいるのだけど、なんと彼はまだ8歳。でもその役が、82歳の若宮さんでもおかしくないわけ。

若宮 プログラミングの世界で、今問題になっているのは、若い学生が「作りたいプログラムがない」と悩むことだそうです。技術も知識もトップクラスなのに、作ることの楽しさを学校で教えられないのかしら。

茂木 解決のヒントが、若宮さんの実践した「独学」にあると思います。「百ます計算」で知られる隂山英男さんも、「これからの教育のカギは『脱・学校化』だ」と。かつては学校の中でしか学べなかったけれど、今後は、学校へ通うのは選択肢の一つになるでしょう。学びたい意欲さえあれば、道はいくらでもあるからです。

若宮 アプリを作った時も、基本的なことは、ネットで情報を集めました。それでもわからないと、復興支援のお手伝いの時に知り合った宮城県在住の「コンピュータ大好きなお兄さま」に教えていただきましたね。

茂木 若宮さんのふるまいが、今どきの小中学生とまったく変わらないことが、実に面白い。

若宮 メロウ倶楽部では「マーチャン」というハンドルネームを使っていますが、匿名でいることで、年齢も国籍も経歴も関係なく、フラットなお付き合いができる。それもインターネットの素敵なところ。そういえば、アップル社にアプリの申請をした時、性別欄が「男性・女性・その他」となっていたのですよ。

茂木 アメリカの、特にシリコンバレーのカルチャーは、年齢や性別などと関係なく、その人自身を評価する。つまり「らしさ」の壁が、イノベーションの「敵」になることをわかっているのでしょう。

「技術も知識もトップクラスなのに、作ることの楽しさを学校で教えられないのかしら」(若宮さん)