人も風景も描かない。描くのは、神獣のみ──。2018年、日本橋三越本店で行われた個展では3万人を動員するなど、小松さんは国内外から注目を浴びる気鋭のアーティスト。絵を描く時は一心不乱、多くの観客を前にしたライブペイントも人気だ。2019年のインタビューを再掲する。(構成=篠藤ゆり 撮影=木村直軌)
ともにスピードに乗ってくれる人たちと
2018年の締めくくりは、「大和力を、世界へ。」と題した個展でした。会場が百貨店ということもあって、本当に大勢の方に来ていただいて。私の絵のテーマである神獣シリーズを始め、原点となる山犬シリーズ、立体の狛犬など約100点を展示しました。「今年だけでこんなに描いたの?」と聞かれましたが、実はその倍は描いています。
というのも、私は仕事を3年周期で進めることにしていて。1年目は「覚醒」、2年目が「進化」、そして3年目が「達成」。「覚醒」の年だった16年、私は多作の作家になろう、そしていろいろな国で展覧会をしていこう、と考えました。海外で展覧会を開くには、作品点数が必要。ですからこの3年間は毎年200点作ろうと決めました。
17、18年と続けて台湾で個展を開いたのですが、現地で1ヵ月くらい家を借りて、個展の期間中もギャラリー地下の倉庫でずっと描いていました。
年200点の制作、という目標も達成できたし、この3年、全力で駆け抜けた気がします。自分でもびっくりするくらいのスピード感で、世界が広がっていきました。そういう時は、一緒にスピードに乗ってくれる人が現れて、力を貸してくれるんですよね。
あっという間に中華圏で注目されたのも、台湾でプロモーションを手がけてくださった方のおかげ。北京で賞もいただきましたし、香港でライブペイントをやったら、会場の外まで人が並んでいた。この前も上海の街を歩いていると、通りすがりの方に名前を呼ばれて。普通なら数年かかるようなことが数ヵ月で展開していくのは、力を貸してくれるチームがあるから。羽ばたかせてもらっているなあと思います。
今でこそ多くの方に注目していただいていますが、私の作品はおどろおどろしい、とよく言われてきました。それはたぶん、目に見えないものを描こうとしているからかもしれません。
たとえば皆さんに馴染みのある狛犬も、さまざまな文化や宗教が集積されてできたもの。エジプトのスフィンクスや、旧約聖書に出てくるケルビム、中近東からヨーロッパに伝わったグリフォンなどと起源は同じだと言われています。文化が伝播していくなかで中国やインドの獅子伝説も混じり、日本で狛犬という形になった。
でもそこに宿っているのは、やはり「非物質」のスピリット。目に見えない聖なる力で、私はそういうものを描きたいのです。