「あの時は、本当にびっくりした。『同じ景色を見て同じようなことを考える人がいるんだ』って。」(吉永さん)

吉永 私にとっての千恵さんは、ずっとスクリーンで観ていた憧れの人。昔はカラオケで「下町の太陽」を歌っていたくらいなんだから。仕事柄、さまざまなジャンルの人と会ってきたけれど、仕事以外で女優さんと会う機会なんてそうそうない。初対面の時は「あの倍賞さんだ!」みたいな感じで、緊張して声が裏返っちゃった。でも『男はつらいよ』のさくら役のイメージもあるからか、身近な存在にも感じられて不思議な気持ちだったよ。

倍賞 そうか、そうか。映画を観てくれていたんだね。

吉永 もちろんよ。緊張でドキドキしながらも、また会えたらいいなと思ったの。

倍賞 私も、初対面のあとまた会いたいなと思ったよ。

吉永 両方がそう思っていると、不思議なことにまた会う機会が生まれる。そうして会話を重ねているうち、変な気遣いをしていないことにふと気づく。「あ、この人の前では自然な声が出ているな」みたいな。そこから仲が深まっていくんだろうね。

 

ある程度の垣根はあっていい

倍賞 親しくなって間もない頃に、東日本大震災が起きて──。みっちゃんがグランドプリンスホテル新高輪に小さなブースを借りて、被災地のものを売るチャリティのお店を始めたじゃない。

吉永 何かしなきゃという思いで、後先考えずに突っ走ってしまったから大変だったけど、クタクタになりながら見えたことがたくさんあった。オープンした日、六さん(倍賞さんの夫で作曲家の小六禮次郎さん)と激励に来てくれたよね。

倍賞 そうだったね。

吉永 別の日、千恵さんが法被を着て、福島のお酒を売ってくれたじゃない? 通りかかる人もまさか、あの倍賞千恵子がいるとは思わないから、ちょっと間をおいてから、「えっ!」って驚いていたよね(笑)。すごく力になってくれたし、ありがたかった。

倍賞 大変な時期にお店を出すなんて頑張っているなと思って、少しでも力になりたかったの。

吉永 震災という、われわれの軸を変えてしまうような大きなショックを、ともに感じ分かち合った経験は大きかったと思う。

倍賞 そこから一緒に旅行に行くようにもなったのね。

吉永 “旅行”は、この先関係が続くかどうかのキーポイントになると思う。24時間一緒にいると、いろいろな面が見えるし、女友達って、旅先で険悪になって疎遠になることもあるじゃない。

倍賞 私たちは、それがまったくなかったね。10人くらいでハワイへグループ旅行をしたのをきっかけに、国内外あちこち一緒に出かけるようになって。

吉永 バスに乗っている時、海が見えてきたから何気なく「み~かんの花が~」と口ずさんだら、離れた席で千恵さんも偶然に同じ歌を歌ってたことがあったよね。あの時は、本当にびっくりした。「同じ景色を見て同じようなことを考える人がいるんだ」って。

倍賞 不思議なことに、そういうことがよくあるのよね。