EC事業部と売り場の連携を強化する施策の会合で、EC事業部部長の橘さんと、その下で働く染谷さんに会った。ふとした雑談から正面玄関横の雀の銅像の衣装を作っている編み部というコミュニティを知り、その創設者が橘さんだと知った。
二十年前、橘さんは福来屋日本橋店の受付係をしていたらしい。ほとんど客足がなかった大雪の日。吹き込んだ雪で白くまだらになった雀の一家を見て寒そうだな、と思い、子供の頃から得意だったリリヤン編みで、細いマフラーを作って親雀たちの首に巻きつけた。それが活動の始まりだった。
「編み物、おすすめですよ。慣れてくると編んでいる間にすごくリラックスできて、悩みごとを忘れられるの。間違えたらほどけばいい、っていう気楽さもあるしね」
人たらしで有名な橘さんから朗らかな笑顔で誘われて、敦子は指でつつかれたドミノ板のように心が動くのを感じた。時間を見つけて手ほどきを受け、一ヶ月後には第一作となる雀の帽子を編んでいた。
思えばあれは、定年を目前にして編み部の人数減を案じた橘さんによる巧妙な勧誘だったのかもしれない。ともあれ、編み物は一つのものごとを地道に続けることが得意な敦子の性格に合っていた。雀の衣装だけでなく、いろいろなものを編んだ。自分用のマフラー、母親のリクエストを汲んだレッグウォーマー、友人の子供たちにプレゼントした色違いの手袋、売り場の装飾に使うぷっくりとした毛糸の花。
編み目に集中して黙々と編み棒を動かしていると、まるでちょうどいい難易度のパズルでも解いているみたいに、悩みの詰まった頭が軽くなるのを感じた。いつのまにか手元にいいものができている、という感覚も素敵だ。
眠る前に動画やドラマを流しつつ、編み物をしてからベッドに入る習慣ができた。目を閉じると、編み目を拾うリズムにのって、心地よく意識が遠ざかる。次の日を、健やかに迎えられる。
