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世界一有名なオペラ歌手の素顔に迫る

ルチアーノ・パヴァロッティは1935年、イタリアのモデナに生まれ、61年に歌手としてデビュー。三大テノール・コンサートをはじめとする、オペラ歌手の枠を超えた広範な活動は、クラシック界では批判もされた。だが、アルバム売上総数は1億枚を記録し、2007年に亡くなってからも、その明るく豊かなベルカントは世界中の人から愛され続けている。生前に望んだとおり、彼は「オペラを届けた人」として記憶されているのだ。

『ビューティフル・マインド』(01年)でアカデミー賞を受賞したロン・ハワード監督が、本作でパヴァロッティの生涯を多面的に再現する。絶頂期の舞台をはじめ、貴重な映像を交えて半世紀近いキャリアを追い、随所にU2のボノ、プラシド・ドミンゴ、ホセ・カレーラス、ズービン・メータなど交流のあった人たち、さらには妻や娘たちのインタビューが盛り込まれる。鮮やかに描き出されるのは、人生を愛した男の素顔だ。

テノールの高音、ハイCは歌劇場を熱狂させ、悠々と歌い上げるアリアは天性の声かと思うほど自然に響く。ところが、オペラ歌手たちは、自然な男声はバリトンであり、テノールは作られた声だと力説する。もちろん、パヴァロッティには才能があった。それに加えて、聴衆を魅了した声の美しさや表現力は、正しい呼吸法と歌唱法を習得し、研鑽を積んだ努力の賜物だと明かされる。

 

彼は多くの人を惹きつけたが、晩年は逆風にも見舞われた。そのひとつは、タブロイド紙を賑わせたスキャンダル。長年連れ添った妻アドゥア・ヴェロー二と離婚し、20歳以上も歳下のアシスタント、ニコレッタ・マントヴァーニと再婚したことで、故郷モデナでは非難を浴びる。

それでも、前妻や娘たちの辛さを受け止めながら、「恋に落ちてしまった」と彼は悪びれなかった。アドゥアとニコレッタ、それぞれが物語るパヴァロッティには光も影もあり興味深い。

3人の娘も父との思い出を語る。そこには、長所だけでなく、欠点も裏切りも含めて理解する愛があり、一言では語り尽くせない“愛すべき人生の天才”の魅力がうかがえる。

90年、ローマのカラカラ浴場での三大テノールによる圧巻の競演をはじめ、『ラ・ボエーム』『愛の妙薬』など彼の得意としたレパートリーがちりばめられている。特筆すべきは、04年、ニューヨークのメトロポリタン歌劇場での最後のオペラ上演となった『トスカ』だ。当時、衰えを指摘する声もあったが、歌に生きた男の渾身の歌唱に感涙。

ロン・ハワードは巧みな構成で、類まれなる歌声と天真爛漫な笑顔で世界を明るくしたパヴァロッティの人生をドラマチックに綴る。このドキュメンタリーが新たなファンを生むに違いない。

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パヴァロッティ 太陽のテノール

録音/クリストファー・ジェンキンズ
出演/ルチアーノ・パヴァロッティ、プラシド・ドミンゴ、ホセ・カレーラス、
ズービン・メータ、ボノ、ニコレッタ・マントヴァーニ、アドゥア・ヴェロー二ほか
上映時間/1時間55分
イギリス・アメリカ合作
■9月4日よりTOHOシネマズシャンテほかにて全国順次公開

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©IBC MOVIE/KAVAC FILM/GULLANE ENTRETENIMIENTO/MATCH FACTORY PRODUCTIONS/ADVITAM (c)LiaPasqualino

1990年代初頭、イタリアのシチリアではマフィアの全面戦争が激化し、歴史的な大裁判へと発展。国家を揺るがせたこの事件を、犯罪組織の血の掟を破り、政府に寝返ったブシェッタ(ファヴィーノ)を核にドラマ化。81歳の巨匠ベロッキオが真のプライドを貫いた男を描く。

8月28日よりヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて全国順次公開

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シチリアーノ 裏切りの美学
出演:ピエルフランチェスコ・ファヴィーノほか

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©2019 ADNP-TENCINÉMA-GAUMONT-TF1 FILMS PRODUCTION-BELGA PRODUCTIONS-QUAD+TEN

『最強のふたり』(2011年)の監督コンビ、トレダノ&ナカシュが自閉症ケア施設を運営する実在の男たちをモデルに、ユーモアを交えて厳しい現実を描き出す。ややクセのある役が多いカッセルとカテブが普通の男を軽やかに演じ、悲劇とコメディが絶妙なバランスで融合した感動作。

9月11日よりTOHOシネマズシャンテほかにて全国順次公開

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スペシャルズ!〜政府が潰そうとした自閉症ケア施設を守った男たちの実話〜
出演:ヴァンサン・カッセル、レダ・カテブほか

※公開予定は変更・延期・中止の可能性があります。最新の情報は、上映館にご確認ください