キーマンの刑事の造型が見事。シリーズ化に期待⁉
まさきとしかの最新作『あの日、君は何をした』の最初の舞台は、2004年の北関東。「宇都宮女性連続殺人事件」の容疑者が、警察署のトイレから脱走したというニュースから物語は幕をあけます。
その3日後、宇都宮市の近くの前林市で、深夜、警察が不審人物を発見し、職務質問をしようとするのですが、相手は自転車で逃走。駐車中のトラックに激突して死んでしまうんです。亡くなったのは、事件とは何の関係もない中学生の水野大樹(たいき)。この悲劇が大樹の母親いづみを絶望の淵へと追いやり、彼女の精神をじわじわ蝕んでいくさまを、第1部は丁寧に描いていきます。
第2部の舞台は一転、2019年の東京です。新宿区のアパートで若い女性が殺害され、彼女の不倫相手であるがゆえに容疑者となっている百井辰彦が行方不明に。辰彦を心配しているように見えない妻の野々子、彼女に対して疑心を募らせていく姑の智恵。第1部の水野家同様、百井家にもじょじょに深い闇が垂れ込めていきます。
時と場所を大きく隔てたこの2つの物語が、どうつながっていくのか。読者はかなり長い間、暗中模索のまま読み進めることになります。キーマンとなるのは、2019年の事件の捜査にあたっている、有能だけれど変わり者で知られる刑事・三ツ矢秀平。
2つの事件をつなげるアクロバティックな展開の見事さが評判のこの小説ですが、三ツ矢の造型も大きな美点です。シリーズものの主人公にもなりうる、ユニークにして深みのあるキャラクターで、これまでのまさき作品にはいなかったタイプの人物を創造したのはお手柄。
驚嘆必至の結末といい、人気赤丸急上昇中の作家の勢いを伝えて熱いミステリーです。
著◎まさきとしか
小学館文庫 720円