森瑤子の帽子

著◎島﨑今日子
幻冬舎 1700円

最後まで理想の自分を演じた
作家の光と影

実に読み応えのある、圧巻の森瑤子評伝である。

確かに私たちが「作家・森瑤子」からすぐにイメージするのは〈真っ赤な口紅と大きな肩パッドと並んで帽子〉姿だ。そしてメディアにたびたび登場するゴージャスなライフスタイルと華麗な交友関係。1980年代のバブル期に、女性の性、主婦の自立、母と娘の葛藤など、本誌の読者にはなじみが深いであろう先駆的テーマで次々と作品を発表しながら、瞬く間に時代の寵児となった。

そんな森が胃がんで亡くなったのは1993年7月、享年52。『情事』で華々しくデビューしたのは78年のことだから、作家生活は約15年。改めて計算してみて、その短さに驚かされた。膨大な作品群と実績、強烈な印象からしてもっと長いと思っていた。それはまさにバブル期を一瞬にして駆け抜けた風のように、「書き急ぎ」「生き急いだ」作家人生だったのではないだろうか。

本書の読みどころは、数多の関係者たちへの踏み込んだインタビューと取材、それに応える洞察力・観察力に富んだ証言の数々である。冒頭の山田詠美にはじまり、五木寛之、北方謙三、近藤正臣、担当編集者たちと秘書と友人、そして英国人の夫、3人の娘たちもインタビューに答え「森亡き後」についても赤裸々に語る。

多くの証言から見えてくるのは、最後まで自分が理想とする華やかな「作家・森瑤子」を演じ続け、その死さえも完璧にプレゼンしたかのような壮絶な生きざま、明暗差の激しい光と影である。森にとっての帽子は演じるための鎧のようなものだった。バブル時代を背景に、深い陰影に富んだ作家・森瑤子像を浮かび上がらせている。