娘の作品はあえて読みません
マリエ 父娘2人で取材を受けるのは今回が初めてね。
魔夜 何しろ、きみが漫画家としてデビューしたのは2017年のことだから。
マリエ 私自身はまだ1冊しか単行本(『魔夜の娘はお腐り申しあげて』)がないから、「漫画家です」と名乗るのは恐れ多いです。ただ、自分で本を出してみてわかったけど、『パタリロ!』が40年かけてコミックス100巻を達成したっていうのは、バケモンだよね。自分の親としても、漫画家の先輩としても、1つの作品をここまで長く続けられるのはすごい。
魔夜 『パタリロ!』は楽なんだよ。 主人公が勝手に走り出してくれるおかげで、何も考えずに描けるから。でも作品の中には、もう最初の3ページでダメだとわかるものもある。主人公が動かないんだ。「なんとかコミックス1冊分頑張ってくれ!」と、主人公の背中を無理やり押して描く日々だった。
マリエ 峰央さんは息をするように自然に描いてきたでしょう? そんな苦しみもあったとは。
魔夜 僕はあまり感情の起伏がはげしくなくて、ずっとフラットだからね。止まった心臓みたいに。
マリエ その表現はやめて……。私は落書き程度にしか描いてこなかったのに、2017年にエッセイ漫画を描きませんか、というお話をいただいてビックリしました。でも実感が湧かなくて。インターネットで「魔夜峰央の娘、漫画家デビュー!」と話題になって初めて、「デビューだったのね」と気づいたくらい。私が漫画家になる話を聞いてどう思った?
魔夜 一度やってみればいい、と。それに、マリエの絵の実力はある程度のレベルに達しているとは思っていたよ。中学生ですでに、僕が同じ頃に描いていたものよりはるかにうまかったし。
マリエ そうかな。
魔夜 『パタリロ!』は80巻を過ぎたあたりから、全部マリエが表紙の色を塗ってくれていたから。
マリエ ただ峰央さんは、まだ私の本を読んでないよね?
魔夜 まあね。必要以上に厳しく批評してしまいそうだから。ほかの人だったら「いいよいいよ〜」って流せても、娘にはできない。なのであえて読みません。
マリエ それは、読んでもらうのに勇気がいるかも……。私が漫画家になって嬉しい?
魔夜 周囲の人に、「娘さんが漫画家を継いでくれて良かったですね」と言われることはあるけど、それよりも自分の好きな道を見つけてくれたことのほうが嬉しい。
マリエ えへへ。確かに、親から強制されていたらやらなかったかも。