家を空けることが多くなった夫
夫はある日「小遣い稼ぎがしたいから、友達のトラックに乗って荷物を運ぶバイトをする」と言い出した。私は少しでも家計がラクになるならと承諾。しかし、徹夜で麻雀だとか、遠出の運送だとか理由をつけては家を空けることが多くなった。朝帰ってきても、すぐにパチンコに行くと言って出かけてしまう。
女がいると疑う余地はいくらでもあったのに……。私はつくづく鈍い女だったのだろう。5年ほどそういう状態が続いたが、あるとき夫の外泊・外出がぴたりと止まる。土曜の朝は遅くまで寝ていて、パジャマ姿のまま1日を過ごす。「どうしたの?」と聞けば、「仕事がなくなった」と答える。おかしい。
その日は、初春の陽が射し込む穏やかな午後だった。玄関チャイムが鳴りドアを開けると、見知らぬ女が立っていた。手に持っていた写真には、満面の笑みを浮かべた夫が写っている。状況が飲み込めない。女の引きつったような顔だけが目に飛び込んできた。私が「あなたは?」と尋ねると、「Aさんとつき合っている者です」と小声で、しかしハッキリと夫の名前を言った。
わからないことだらけだったが、間違いなくその女は、夫の女なのだ。そのときの夫の間抜けな顔は忘れられない。それはそうだろう。「とにかく来て」の一言で呼び出された玄関に、私と彼女が鬼のような顔で待っていたのだから。