その後体験した立ち会い出産の詳細、家族に加えたニワトリに教えられたこと、卵から育てたニワトリを食べるということ。地域とのつながり、3人の子どもたちの成長。家族エッセイというより生物学用語でいう服部家の「繁殖」報告なので、執筆中は「繁殖日記」と呼んでいました。

『サバイバル家族』(著:服部文祥/中央公論新社)

私が庭で野糞をする理由、そこで起こったご近所とのささやかな事件。長男が不登校になったり、次男が高校を退学したり。家族のことをネタにすると決めた時点で、変に格好つけないと覚悟しました。そもそも私の文字表現が登山記録から始まっているので、今回も嘘偽りない報告です。

私が山で獲ってきた鹿や猪、ヌートリア(ネズミの一種)を捌くのを子どもたちは手伝ってくれます。飼っていたニワトリを絞めるとき泣いていた末娘が、食べるときには「美味しく食べればいいんだよ」と言ったことには、こっちも考えさせられました。

現代の常識と照らし合わせたら、“成功した家庭”とは言えないですが、それでも子育ての秘訣を聞かれれば、子どもを子ども扱いせず「一人の人間として尊重する」ことだと思っています。ルール違反をしたときも頭ごなしに叱らず、なぜダメなのか理由をいっしょに考えました。でもその理由がけっこう難しい。しつけとは結局、人として社会にあるための最低限の約束を教えることで、マナーを守る理由は、そうしないと「格好悪いから」とか「モテないから」になってしまうんです。

家族と獲物を捌いたり、世の中のカラクリを考えたりというのは、「自主自立」という面で、サバイバル登山や狩猟活動に繋がっていると思います。最近は、“巣立ち”に備えて、今度は親のほうが「子どもに依存しないようにしよう」と妻と話しているんです。3人が独立するのがベストですが、僕ら夫婦が家を出て、山奥の小屋で暮らすという独立の方法もある。家族という塊から子どもが完全にちぎれる日が来たら、『サバイバル家族』の後日譚を書けるかもしれませんね。

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