「最近は、《巣立ち》に備えて、今度は親のほうが『子どもに依存しないようにしよう』と妻と話しているんです。」
最小限の装備で山に入り、食糧を山中で調達する「サバイバル登山」を実践する、登山家の服部文祥さん。恋愛、結婚、出産、子育てと、家族が成長していく過程を報告する、服部家の「繁殖日記」として綴られた本書。子どもの不登校や中退など、嘘偽りない家族の姿が綴られています――(撮影=本社写真部)

狩猟する登山家の「繁殖日記」

最小限の装備で山に入り、食糧を山中で調達する「サバイバル登山」を始めてから21年が経ちました。高校の頃夢見ていたのは登山家ではなく表現者、芥川龍之介のような文豪です。それを知る祖父母に大学入学祝いのワープロを買ってもらい、自分の打った言葉が活字になって出てくるのを見て「すごい。よし書くぞ」と意気込んだものの、書きたいことが何も浮かんでこなかった――。

薄々気がついてはいましたが、私自身に生命体としての経験が圧倒的に足りず、中身はからっぽなんだと突きつけられました。経験が欲しくて、幼い頃からの得意分野である野遊びの延長かなと、ワンダーフォーゲル部に入ったのです。

登山には審判や観客がいないため、自分で記録することが行為に含まれます。私も山行記録や山で考えたことなどをワープロで少しずつ綴るようになり、その過程で山岳雑誌関係に知り合いができました。登山を志す大学生を集めた座談会に呼ばれ、そこで出会ったのが、妻の小雪です。

本書『サバイバル家族』は、恋愛、結婚、出産、子育てと、家族が成長していく過程の報告ですが、特に前半は、私は運命の女性に出会ったと確信しているのに、相手はまったくそう思っていなかったことから始まる、伴侶獲得奮闘記になっています。