イラスト:丹下京子
手塩にかけて育てた娘・息子が、手のひらを返したような冷たい態度に。お相手に遠慮があるのか、親への思いを忘れたか――(「読者体験手記」より)

つき合っていたなら言ってくれればいいのに

ひとり娘が「優しい人」とやらと結婚したのは、6年前に亡くした夫の三回忌を終えた頃。「お父さんにそっくりなの」という娘の言葉に負けたのだが、今思えば、もっと熟慮すべきだった。

娘に頼まれ初めて彼に会った日、突然「もうお見合いはさせないでください」と彼に言われて驚いた。私が親同士のお見合いパーティに参加しはじめたのは、娘が28歳のとき。ずっと一緒に暮らしていたいが、親が死ねば娘はひとりぼっち。そう考えると、じっとしてはいられなかったのだ。

お見合いで出会った親御さんたちとは、同じ思いを抱えているだけに心が通い合った。ありがたいことに5年間で4回ほどお見合いの場を設けていただき、なかには「ぜひ」と言ってくださるお母様もいた。残念ながら、条件的には申し分なくても娘の思うところと折り合わないことが続き、私は少し疲れていた。

そんなときに、娘が仕事先で知り合った男性を連れてきたのだ。つき合っていたなら早く言ってくれればいいのに。見合いの際に絶対に譲れないと娘が挙げていた、年収や非喫煙者などの条件はどこへ。しかし、私の人生ではない。娘が好きな人が一番いいに決まっている。自分に言い聞かせ、お見合いは断念した。

数ヵ月後にふたりは結婚。私の家から自転車で5分のところに住んでくれることになったのはありがたく、ふたりのために何でもしようと決めた。それが悲劇の幕開けとも知らずに。