「伊丹十三賞」をきっかけに広がった世界
音楽もたくさん聴きましたし、映画も楽しみました。本で面白かったのは、映画監督の稲垣浩の『日本映画の若き日々』と、高瀬昌弘の『我が心の稲垣浩』。伊丹十三の父である伊丹万作について、かなり書かれているのです。
伊丹万作は挿画家を経て映画界に入り、脚本家や監督として活躍しましたが、この時こう言ったとか、こういう選択をしたとか、具体的な記述がたくさんあって。今まで想像の中の人だったのが、本を読むことで実体として立ち上がってくるのでワクワクしました。いずれこの本を伊丹十三記念館に収めたいと思います。
愛媛県松山市にある伊丹十三記念館は、伊丹が亡くなって10年になる2007年にオープンし、私が館長を務めています。今年で13年ですから、ちょうど十三(笑)。09年には、優れた文筆・映像作品に対して贈る「伊丹十三賞」を創設しました。今年の受賞者は宮藤官九郎さん。コロナの影響で贈呈式やパーティもできません。近々お目にかかって正賞の盾と副賞をお渡しするつもりです。
「伊丹十三賞」をきっかけに、私自身の世界も広がりました。16年に受賞された是枝裕和監督は、もちろん存じ上げていましたが、受賞パーティの時にお目にかかったことで思わぬご縁が生まれたのです。是枝監督が日仏共同で作られた映画『真実』の日本語版で、なんと主演のカトリーヌ・ドヌーヴの吹き替えに声をかけてくださって、とても嬉しかったです。