さあ、ちゃんとやるわよ、母。声を荒らげないように気をつけて。

まず落ち着いて座りましょうか。そう、あのスニーカー気に入っていたのに残念だね(悲しみを肯定)。欲しくて欲しくてママと渋谷まで買いに行ったよね(せっかく行ったのにー、とか責めちゃあいけない)。

お友達もお友達のママもちっとも悪くない。お洋服貸してくれて洗濯までしてくれて(感謝を強調)。でもあなたも悪くない。こうなるって、予測できなかっただけだよね(あくまでも不測の事態による過失)。

ママはあなたを責めない。あなたも誰をも責められない。残念だけど、勉強になったよね。うんと悲しんで、うんと悔しがりなさい。こんなに辛い思いをしたら、もう二度と同じ過ちを犯すことはないでしょう。それが反省するっていうことです。泣きなさい。そしてあきらめなさい(まあこのくらいにしておくか)。

あっでも、仕方がないからまたすぐ新しいの買ってもらえばいいや、っていうのは違うからね(ここんとこ念を押しておかないと)。

可哀想な娘は自分の部屋でひとしきり声をあげて泣いた挙句、疲れてぐっすり眠り込んでいた。くくく、なんだか泣き寝入りした赤ちゃんみたいだね。

今回、けっこうちゃんとできたんじゃない、母? 終始冷静に、怒るんじゃなく叱るでもなく、諭して導く、的な。いつもの私なら理屈でしつこく責めてしまい、すると責められたほうはふてくされ、何よその態度はー、と、もはやそもそも何で怒っていたのかわからなくなっていくのだ。いやあ、母、成長したよ。

ここまで18年かかった。でもまだまだ、道半ばでございます。

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