忌野清志郎さんと一緒に過ごして

筋肉をほぐしたことで、顎の痛みや口が開かないといった症状が徐々になくなりました。しかし、僕は人気絶頂の20代後半の大事な時期に、芸能の仕事ができないことに後ろめたさを感じていました。同年代の俳優さんたちが多く活躍するなか、僕だけが取り残されている気がして……。さらにお医者さんからは、顎の病気を抱えながらサックスを続けていくのは難しいかもしれないとも言われ、絶望していました。

そんな時に声をかけてくださったのが、ミュージシャンの忌野清志郎さんだったのです。俳優の竹中直人さんに紹介していただいて交流が始まり、なんとライブツアーにサックス奏者として迎え入れてもらえることになりました。

しかも、そのツアーの移動手段はなんと自転車。清志郎さんはじめ、メンバー全員が街から街へ自転車で移動する。当時ご自身の肉体と今一度向き合い、さらにステージパフォーマンスを向上させようとしていた清志郎さんと、僕があのタイミングで巡り合えたのはものすごくラッキーでしたね。僕の日常に、否が応でも自転車によるトレーニングが入ってきました。

ゆったりとした時間を過ごせたのも、心の整理にすごくよかったと思っています。清志郎さんの音楽の激しさの中にある優しいメッセージに触れ、一緒に自転車をこいで外の世界の新鮮な空気を吸い、またステージに立つ。そんな日々。伝説のロックスターと過ごしている「今、この時間」を大切にしようと思えたことで、理想と現実の狭間で勝手に苦しんでいた僕の体調もよくなってきて……。

清志郎さんは音楽に関して厳しい人でしたが、僕がライブで大失敗しても、「今日のはリハーサル本番だったってことで」と笑って許してくれる、あたたかい人でもありました。あの時、僕を救ってくれた清志郎さんには、本当に感謝しかありません。今でも幸せなことがあると、真っ先に清志郎さんの顔が思い浮かびます。

顎関節症の治療のために始めたトレーニングですが、症状が治ってからも続けていて、筋トレ歴はかれこれ20年になります。胸や腕を鍛えるベンチプレスは、より自分の体に合ったトレーニング内容に修正しつつ、15年前からほぼ同じメニュー。長く続けることで、体形の崩れにくい体質にもなっているのかなと思っています。

そんな地道なトレーニングの効果を時折SNSにアップしていたら、NHKの方の目に留まったのか、『みんなで筋肉体操』からオファーが来ました。そういう番組なら、アスリートの方たちのほうが向いているのではと思ったのですが、僕のようにもとは細かった人間が、筋肉をつけて心も体も健康になったというのが見えるほうが、「人は変われるんだ」という説得力があると思っていただけたのでしょう。

僕以外のメンバーも東大出の弁護士さんやスウェーデン出身の庭師さんなど、他に仕事があり、生活のなかにトレーニングをうまく取り入れている方々ばかりだったので、選んでいただいたことを光栄に思い、前向きに取り組めました。