「感染予防や重症化しないために免疫が大切なのはわかっているのですが、自分で《免疫》と口にしながら、そもそもどういうものかは理解できていないんです」(赤江さん)

病を引き起こす《慢性炎症》

赤江 免疫が働くことは健康であるために重要なのですね。

宮坂 ええ。しかし、免疫は体に悪い作用を及ぼすこともあるのです。花粉症などのアレルギー症状は、本来無害な花粉を異物と認識してしまい、免疫反応が過剰に働くことで鼻水やくしゃみが出る。また、自己免疫疾患と呼ばれる関節リウマチやバセドウ病は、自分の体の組織を間違って攻撃してしまうことで発症します。ですから、単純に免疫力が高ければいいというものではなく、免疫のアクセルとブレーキがバランスよく働くことで体調が整うのです。

赤江 ブレーキも必要と?

宮坂 そうです。病原体など異物が体内に入ってくると、組織が赤く腫れたり、熱を持ったり、痛んだりする炎症反応が起こります。本来は異物を体外に追い出したら炎症はおさまるものなのですが、ブレーキがきかないと、えんえんと炎症が続く《慢性炎症》の状態になってしまう。

赤江 なぜ炎症が止まらなくなるのでしょう?

宮坂 原因の一つは、炎症を起こす物質が続けて体内に入ってくることです。たとえば花粉、タバコのニコチンや煙、アスベストなどを継続的に吸い込むことで炎症が続き、組織が傷ついてがんを引き起こすことがあります。もう一つの原因は食べ物。脂肪分や糖分の摂りすぎは細胞を傷つけます。先ほど説明した自然免疫は敵を識別する力が少し弱く、敵だけでなく傷ついた自分の細胞も排除しようとするため、炎症が続くのです。

赤江 慢性炎症は、糖尿病や動脈硬化、がんなどさまざまな病気に関与しているということなんですね。新型コロナでは免疫の暴走が重症化の原因ではないかと言われています。私が治療を受けた際、医師が、「肥満の人は免疫が暴走しやすい」とおっしゃっていました。慢性炎症と関係はあるのでしょうか?

宮坂 はい。肥満は脂肪組織に持続的な炎症が起こっている状態です。新型コロナウイルスに感染すると、気道で起こる炎症が刺激となって、脂肪組織の炎症がさらにひどくなり病態が悪化します。糖尿病や動脈硬化、心疾患など持病がある人が新型コロナに感染すると重症化しやすいと言われるのも同じ理屈です。ちなみに欧米人に比べて日本人の重症化率が低いのは、肥満の人が少ないのが一因だと言われています。