妻が未知の世界に連れていってくれた

『婦人公論』世代の女性たちには、生命力を感じますね。男性は、年をとるとどんどん元気がなくなるけど、女性はその逆。生き物として女性はすぐれているんだな、と思います。
 
実は、幼い頃から家の中で女のきょうだいに挟まれて小さくなっていたということもありますが、僕は女性が怖いんです。いろいろな女性に傷つけられてきましたから。まあそれも、自分が弱くて気が小さいゆえのことなのですが。
 
たとえば、小学校6年生の時のこと。運動会でフォークダンスを踊ることになり男女のペアが作られました。僕の相手はなんと、すごく好きだった女の子。あの子とずっと手をつないでいられるなんて! と舞い上がりながら練習をしていると、ある日彼女が「ヨシタケ君って、いつも手がベタベタしているのよね」って。

そう、僕は手にすごく汗をかくんですよ。

一緒に踊れて嬉しいのは自分だけで、彼女は「気持ち悪い」と思っていたなんて。ものすごくショックでしたし、彼女に不快な思いをさせて本当に申し訳なかった。
 
それ以来、僕は人に触れなくなってしまいました。今でも、スーパーのレジで店員さんからおつりを渡される瞬間、すっと手を引いてしまう。何度か同じようなことがあり、女性=僕を傷つけるものということになってしまったわけです。
 
でも、弱くてダメな僕を救ってくれ、支えてくれたのも女性なんですよね。

母はいつも「好きなことをやっていいのよ」と言ってくれました。「あなたはモノを作るのが好きだから、作家みたいな人になるんでしょう?」と。大学を卒業して会社に就職すると伝えると、「え、サラリーマンになるの?」とむしろがっかりしていたくらいですから。
 
母は僕が27歳の時に亡くなりましたが、最後まで「あなたは好きなことをやっていくのよね」と無条件に信じてくれていました。今の姿を見せてあげられなかったのはとても残念。でも、いつも空の上から見てくれているような感覚があります。

妻も、僕にとって大きな支えです。まったく違う業界の人なのですが、ある日仕事場に、彼女が遊びに来てくれて。性格は僕と正反対で、行動的な人。出会った当初からぐいぐい引っ張ってくれました。

「経済的な余裕がないから、結婚なんてできない」
「心配性だから、子どもを育てる責任の重さに耐えられない」

そう言ってためらう僕を、妻は結婚に子育てにと未知の世界に連れていってくれたのです。いずれも飛び込んでみたらおもしろいし、新しい気づきや発見がありました。
 
そもそもイラストの仕事を始める時も、絵本のお話をいただいた時も、「大丈夫、やれるわよ」と背中を押してくれたのは、妻です。本当に感謝しています。