〝弱さ〟を書くのが、自分の役目

子どもがいなかったら、絵本は描けていなかったでしょうね。

僕が絵本を作る時に一番大事にしているのは、自分が子どもだった頃に考えていたこと。ただ、それだけだと、自分の経験にすぎず、普遍的な「あるある」にはならない。その時にわが子を観察していると、裏が取れるんです。「あ、それ僕もやってた、やってた。気持ちいいよね」とか。

僕は母が亡くなって5年後に父も亡くしたのですが、晩年の父とはあまりうまくいかず、憎んでいた時期もあります。ですから男の子が生まれた時、「自分もいずれ憎まれるんだろうな」と思って、ちょっぴりがっかりしたんです。
 
ところが、息子たちは無条件に父親である僕を慕ってくれる。それを見て、ああ、僕も昔はお父さんのことが大好きだった、と。それは、息子がいなかったら思い出せなかった感情です。人間の感情はどんどん上書きされていくけれど、子どもの時は違ったんだ……と、父との間にあったわだかまりが消えたんです。
 
子育てをしていると、そんなふうに忘れていたことに気づかされたり、こんな発想をするのか! と驚かされたりすることばかりです。その一つ一つはわざわざ取り上げるほどの意味も価値もないかもしれませんが、だからこそ拾い集め、おもしろがっていきたい。

実は、絵本を描き始めた時、ひそかに自信がありました。100人に1人か2人は僕のように、自分の弱さみたいなものに引け目を感じながらひっそり生きている人間がいて、その人たちには楽しんでもらえるはずだと。

いざ出してみると、想定以上に多くの人が共感してくださった。初めは信じられませんでしたが、いろいろな人の話を聞くうちに、弱さは誰もが抱えているのだということがわかりました。多くの人は弱い部分を克服したうえで、強さと明るさを保っているのですね。

みなさんが早い段階で乗り越えていった場所に、僕は40歳になるまでずっと佇んでいた。そのことに驚いてしまったのですが、今となっては芸風にするしかありません(笑)。今後も、その場所から見える景色を描き続けたい。それが自分の役目だと思っています。