「オレの話を聴いてくれ!」と叫ぶような人が就く?
今でこそ僕は、絵本作家として仕事をしていますが、こんな未来はまったく想像もしていませんでした。
作家という職業は、駅前でギターをかき鳴らして「オレの話を聴いてくれ!」と叫ぶような人が就くものだと思っていましたから。自分には最も遠い仕事だと。
子どもの頃から僕は、すべてにおいて受け身でした。もともと気が小さく、怒られることが大嫌い。そのため、事を荒立てないことが生きる目標だったのです。
きょうだいは姉が1人と妹が2人……となると必然的に、男の僕は弱い立場になりますよね。とくに2つ上の姉はとにかく我の強い人で、しかも天才だったんです。絵を描けば賞をもらうし、勉強もめちゃめちゃよくできる。
そういう絶対的な姉が上にいると、僕が意見を言ったところで「あんた何言ってるの」と怒られるだけで、何の得もありません。どんどん引っ込み思案になって、自分から動くことをしなくなってしまったんです。
自分はこうしたい、というのがないので反抗期もありませんでした。友達はみんな、母親に向かって「うるせぇ、ババア」なんて言っているのに、僕には親に口答えをするという発想もない。そんな調子なので、高校で進路を決めるとなった時、何も見えてきませんでした。意見も夢もない自分にコンプレックスを感じ、ものすごく焦っていましたね。
そんななか、ふと思い出しました。「モノ作りなら自分にもできるかも」と。
小さい頃、姉が唯一やらなかったのが工作。そこで、僕がしてみたら母がすごくほめてくれたのです。母にしてみれば「この子は工作しかほめるところがない」と思ったのでしょうけれど(笑)、僕は嬉しくて。
工作を仕事にするとしたらどんな職業があるだろう。映画の小道具や着ぐるみを作るのもおもしろそう。美術系の大学ならその技術を学べそう……と、ようやく自分の進路を先生に伝えられるようになったというわけです。
なんとか美術系の大学に入ったのですが、早々に壁にぶつかりました。入学して最初の授業は、新入生全員が参加するデッサン。ところが採点の結果、僕はクラスの中で“ビリ”だったんです。先生に「おまえ、よくうちの大学に入れたな」とみんなの前で言われたほどでした。だから当時は、まさか絵が仕事になるとは思ってもみませんでしたね。