「うちだけじゃないんだ」に助けられて
40歳(2013年)にデビューしたので、絵本作家としてはまだまだ新人です。それなのに、おかげさまでたくさんの人々に作品を読んでいただき、ありがたい限りですね。
人気の理由ですか? うーん、何だろう。僕はいつも「次回作は失敗作かもしれない」と思いながら描いているほうなので……。
2017年に、『もう ぬげない』という作品で、イタリアのボローニャ・ラガッツィ賞(「絵本のノーベル賞」と称される賞)の特別賞を受賞したのですが、現地の方がこう言ってくださいました。
「子どもは骨格的に頭が大きいものだから、服がひっかかって脱げなくなるのは、毎日世界中で起こっていること。でも、その現象をわざわざ絵本にしようとしたのはあなたが初めてだ(笑)」と。
つまり、僕の作品は基本的に「あるある」ネタなんです。「あるある」話ってなぜか盛り上がりませんか? おそらくそれは、人間の動物的な本能が影響しているのではないかと、僕は睨んでいます。
敵か味方かを見分けるのに、自分と同じところがあるかどうかは大きな要素。だから、「あ、一緒だ」と感じると、安心するようにできているのだと思います。僕の絵本を読む方は、「自分に近いものを見つけた」と思ってくださっているのかもしれません。
僕は男の子2人の父なんですが、育児をしていて、「うちだけじゃないんだ」という思いにどんなに助けられたか。偉い先生に正論を言われるより、隣のお母さんに「うちの子も夜寝なくて大変なのよ~」と言われたほうが断然救われるんです。
若い時は人と違う自分でありたいと主張していたのに、子どもが生まれたとたん、みんなと一緒でありたいと願う。しかも子どもの成長の場合は、人と同じでありながら、そのうえでほかの子より少し秀でていてほしい。まあ、勝手なものですよね。(笑)
2017年に出したイラストエッセイ『ヨチヨチ父』では、父親から見た子育てを描いています。僕は生まれたばかりの子どもを見た時、「これは何だろう」と思いました。善悪とか損得といった二元論で語れないものだ、と。
だって損得で言うと、お父さんって何も得がないんです。好きで結婚した人に、「私、あなたより大事な人ができたから」と言われるわけで(笑)。それに「はい」としか言えないのがお父さん。でも、その損な状態に「幸せ」という名前を付けないと、先に進めない。
これまでとは違う物差しを少しずつ自分の中に組み立てていって、ある時それはそれで悪くないな、と思う。そんな父親の戸惑いと成長を描いたら、多くの反響をいただいて。とくに「心が軽くなりました」というお父さんの声は、嬉しいですね。