「お任せ民主主義」でいいのか

本書で登場する当確師は、なぜ非の打ちどころがないように見える現職候補を落選させようとするのか。それは、市長が口当たりのいいことばかりを言って、市民が行政に頼ってしまう風潮になっていることに我慢がならないからです。それでは「お任せ民主主義」です。真の民主主義ではない。真の民主主義を実現する。この理想に燃えるのです。

理想に燃えるといえば、真山仁の『オペレーションZ』(新潮社)でも、日本の負債を一気に減らそうとする総理大臣の挑戦が描かれます。「金さえあればなんとでもなる」という風潮に抗し、真のコミュニティを復活させることで、社会福祉事業の経費削減を補完させようという試みが紹介されます。ここに著者である真山仁の思いが滲み出ます。

そういえば、この作品の最後の方に「当確師と名乗る面白い選挙プロデューサー」という表現が出てきます。二つの作品は通底しているのです。

さらにこの作品には、桃地実という作家が登場します。モデルは小松左京を思わせますが、真山仁は、この桃地に、こう言わせます。

「社会に警鐘を鳴らすために、ない知恵を絞って小説を書いてきた。しかし、全ての警鐘は無視されたよ」と。真山仁は、桃地と思いを共有しながら、それでも社会に警鐘を鳴らし続けているのです。

その彼の怒りが噴出しているのが、エッセイ集『アディオス!ジャパン』(毎日新聞出版)での東日本大震災からの復興が進まない地方自治体についての指摘です。

「地方自治体に内包していた重大な弱点も露呈してしまった。地方自治体には我がまちのアイデンティティもなかったことが、はっきり示されたのだ。

政府の補助金がもらえるなら、その自治体にそぐわなくても、何でも実行する。その一方で、これぞ我がまちと言えるような提案力がないため、被災地復興資金のような自由度の高い資金は持て余してしまう。

被災地を訪れる多くの部外者は、『なかなか復興が進まず大変そうだ』と口をそろえる。では、あなたが住むまちはどうなのだ。座して死を待つ衰退を前に、あなたのまちは、どんな取り組みをしているか。

震災復興の問題は、日本全国の都市の問題なのだ」

そう、そして本作の高天市は、あなたの市かも知れないのです。