小説家の真山仁さん「海外では『選挙のプロ』が、有権者の『政治に対する要望』や『怒り』を分析し、候補者と一緒に戦略を立てて最後まで選挙を戦います」(撮影:本社写真部)

アメリカ大統領選の背景には

――主人公・聖達磨の職業は「選挙コンサルタント」。「選挙プロデューサー」とも呼ばれます。依頼人の立候補者を選挙で勝たせることがミッションです。日本ではあまりなじみがない存在ですね

海外の国々では、大きな選挙には必ず選挙プロデューサーが関わっています。先日のアメリカ大統領選でも、バイデンとトランプ、両陣営にそれぞれ選挙プロデューサーがついていました。「選挙のプロ」が、有権者の「政治に対する要望」や「怒り」を分析し、候補者と一緒に戦略を立てて最後まで選挙を戦います。

日本でこうした存在になじみがないのには理由があります。日本の公職選挙法では、投票期間が始まると選挙プロデューサーが候補者を手伝うことが禁止されているのです。だから、表立った活動が少なく、私たちが目にする機会はありません。でも現実には何人かいるので、『当確師』を執筆するにあたっては取材しました。

――特にアメリカの選挙戦は毎回、大規模ですさまじい攻防が繰り広げられていますね

アメリカでは選挙が描かれている小説や映画がたくさんあります。大物俳優が選挙コンサルタントを演じる作品も多く、国民の関心も高いですね。たとえば、1986年に公開された『キングの報酬』。この作品では、リチャード・ギアが敏腕選挙プロデューサーを演じていました。ジョージ・クルーニーが監督し、ライアン・ゴズリングが出演した『スーパー・チューズデー 〜正義を売った日〜』も有名です。これは、実際にあった大統領予備選がモデルになっています。

こうした作品では、選挙プロデューサーがお金と人を駆使して大物を寝返らせたり、スキャンダルを握りつぶしたりと、暗躍する姿がドラマチックに描かれています。まるで日本の戦国時代における国盗り物語の「軍師」のようでもあり、面白いですね。