「怒り」をうまく察知して、選挙戦に生かした
――なるほど、それだけの仕事をしているとなると、選挙プロデューサーの役割が勝敗を左右するカギにもなりますね
中には、億単位の成功報酬を得る人もいると聞きます。誰が選挙プロデューサーについたかで、当確もほぼ分かるそうです。ひとりの候補者に対して複数のプロデューサーがつくことが多く、全体の統括責任者の下に、政策や選挙方針を決める人、対立候補のスキャンダルを探す人など、チームで選挙をプロデュースしています。批判はありますが、ネガティブキャンペーンが一番効くようですが……。
あと、近年ではAIが選挙戦の重要なツールになっています。いまやインターネットの検索結果を見るだけで、その人の支持政党までわかる時代です。例えば、民主党陣営が共和党支持者を寝返らせるために、AIを使って共和党のネガティブな記事や民主党を支持したくなるような記事を配信することができる。アメリカの大統領選で行われていますし、イギリスのブレグジット(EU離脱)の国民投票でも、AIを駆使した世論操作が行われていたと言われています。
――真山さんは先日のアメリカ大統領選をどのようにご覧になりましたか?
正直、トランプがあれだけ票を獲得するとは思いませんでした。でも、共和党はトランプに共感するアメリカ国民の「怒り」をうまく察知して、選挙戦に生かした。その結果が、トランプの得票数の多さにつながったのではないでしょうか。一方で、民主党のバイデン陣営は100%勝てるだろうと見込んで、民意をうまくつかみきれなかった。つまり、選挙のやり方を間違えたのだと思います。これはやはり、背後にいる選挙プロデューサーの実力の差ではないでしょうか。
それでも、この結果には驚愕しましたね。トランプは大統領になってからというもの、アメリカがこれまでグローバル社会で作ったルールを全部壊してきました。自国民の利益だけを守ればいいんだ、となりふり構わず主張する人が、あれだけ票を獲得した。世界をけん引する国としての誇りも何もかもなくなった様子を見ると、アメリカは相当病んでいるのかな、と思いました。
日本では、「横暴なトランプがいなくなってよかった」という報道も目にします。でも、実情はそんなに単純な話ではありません。バイデン氏が所属する民主党は、日本に対して強硬な姿勢を取ることで知られています。これまでの対日関係を見ても、アメリカで民主党が政権を握っているときの方が、日本に対する風当たりが強かった。そういう点で「日本にとって何がベストか」ということをよく考える必要がありますね。