干潟の下は巣穴だらけ

仮に、これを人で考えてみると、どうなるでしょうか。

日本人の成人男性の平均身長が約170センチメートルなので、その20倍は3400センチメートル。つまり34メートルに相当します。

それだけの深さの穴を人力のみで掘るためには相当骨が折れることが予感されますが、もしひとりで34メートルものトンネルで暮らすことになるとすれば、それはそれでちょっと広すぎるような気もしますね。

なおこのアナジャコ、条件がよい場所だと、1平方メートルあたりに200匹以上もの高密度で生息しています。そしてそれら全てが、このY字型の巣穴を掘っているのです。

そうなると、アナジャコが棲む干潟の地面の下というのは、もはや彼らの巣穴だらけであることが想定されます。事実、スコップで干潟を掘れば、それはもう、彼らの巣穴の断面が大量に出現します。そうした事情を知っている筆者からすれば、干潟を歩いているというのではなく、アナジャコの巣穴の上を歩いている、という感じです。

干潮時などに現れる底生生物の巣穴(撮影:著者)