巣穴はなぜY字型か

しかし、ただ身を隠せばいいのなら、どんどん深く、それこそ直進で海底深くまで掘り進めれば良いような気がします。なぜアナジャコは、わざわざY字型の巣穴を掘っているのでしょうか?

その答えは、アナジャコの食べ物にあります。アナジャコの主食は海水中に浮遊しているプランクトンです。そしてそのエサとなるプランクトンを捕まえるためには、実はこのY字型の巣穴がとても役立ちます。

アナジャコのお腹には腹肢(ふくし)というウチワ状の器官が備わっています。その腹肢を使うことで、それこそウチワが風を起こすように、巣穴の中に水流を起こすことができます。彼らはその水流を使い、二つある入り口の一つから、絶えず巣穴へと新しい海水を取り込んでいます。

すると流れてきた水の中に、多くの場合、アナジャコのエサであるプランクトンが懸濁しています。それで目の前までやってきたプランクトンを、ハサミや口の周りに生えたモジャモジャの毛で器用に濾(こ)しとって食べてしまうのです。

なお、濾しとり終わった水は、もう一方の巣穴の入り口から排出し、また新しい海水を取り入れていきます。

つまりアナジャコの巣穴は「隠れ家」であると同時に、効率的にエサを獲得するために彼らが開発した高性能の「装置」ともいえるのです。

『海底の支配者 底生生物』(清家弘治:著 中公新書ラクレ)