敗戦で奪われた地位

神社本庁が、二礼二拍手一礼の作法を推奨するようになった理由は必ずしも明らかにはされていない。だが、戦前は、他の宗教に比べて特権的な地位にあった神社界は、敗戦でいったんはそれを奪われた。そこで、自分たちの権威を再び確立し、それを守ろうとしてきたことがそこに深くかかわっているとも考えられる。

戦後に生まれた神社本庁は、伊勢神宮を「本宗(ほんそう)」と位置づけ、絶対的な権威を与えるとともに、それぞれの神社に、伊勢神宮を守る役割を与えた。具体的には、それぞれの神社が、伊勢神宮の神札である神宮大麻(たいま)を販売するとともに、20年に一度訪れる式年遷宮の際には率先して金集めをする体制が築かれた。これは、戦前にはなかった体制である。

伊勢神宮の内宮には、皇室の祖先である皇祖神とされる天照大神(あまてらすおおみかみ)が祭られている。伊勢神宮を本宗と位置づけることは、神社界全体の権威を高めることにつながる。それが、神社本庁の戦略であり、参拝の仕方を定め、それを広めようというのも、神社の側が参拝者に対して指導的な立場に立つことで、権威をより強化する目的があるように見受けられる。

『神社で拍手を打つな! -日本の「しきたり」のウソ・ホント』(島田裕巳:著/中公新書ラクレ)