光源氏も拍手を打つ
歌舞伎では、登場人物が神棚の前で礼拝する場面が出てくることがある。その際に、役者によっては、拍手を打つことがある。
歌舞伎の舞台は、江戸時代か、それ以前に設定されている。江戸以前は神仏習合の時代で、神と仏は区別されておらず、また、拍手の作法も確立されていないので、拍手など打つことはあり得ない。
これは、20年ほど前のことになるが、市川海老蔵(当時は新之助)主演の『源氏物語』で、海老蔵の光君と、父親の團十郎の桐壺帝が神棚の前で拍手を打ったときには、驚愕した。もちろん、拍手を打たない役者もいる。
多くの観客は、歌舞伎の舞台で拍手が打たれても、それに違和感を持たないだろう。だが、歌舞伎は伝統芸能であり、時代にそぐわないことが行われれば、たとえそれが細かいことでも、作品の世界を壊していく。とくにそれが信仰にかかわることであれば、登場人物の内面の世界を変えてしまうきっかけにもなりかねない。