「対面で打ち合わせもできないなか、みんなで知恵を出しあって。僕は、白粉塗れるだけでも幸せだった。」(猿之助さん)

テーマはパンデミックで舞台はコンビニ!?

猿之助 『弥次喜多』は16年に始まった新作シリーズで、幸四郎さんが弥次郎兵衛、僕が喜多八。若いお殿様の梵太郎を市川染五郎くん、お伴の政之助を市川團子が演じてきた。毎年8月に上演していたけれど、20年はできなかったので、なんとかこれを図夢歌舞伎にしよう、と。でも今までの新作で、一番大変だったんじゃないかな。

幸四郎 なにしろ、時間がなかったから。

猿之助 普通、新作は1年前に企画が上がるけど、具体的になったのは撮影の1ヵ月くらい前。だからといって、付け焼き刃の作品にするわけにはいかない。その時パッと閃いたのが、09年にPARCO劇場で上演した前川知大(ともひろ)さん作の『狭き門より入れ』。僕も出演していた現代劇で、パンデミックがテーマのSF的作品だった。あの時は絵空事だと思っていたけれど、11年後にまさかそれが現実になるとは!

幸四郎 猿之助さんが、あの作品をベースに新作を作れないかと、PARCO劇場と前川さんに自ら交渉してくれた。撮影中もセットの中から、前川さんに電話していたものね。「ここ、変えていいですか?」って。

猿之助 こんな時だからこそ自由にやってくれと、快諾いただいて。舞台では1人が演じていた役を、梵太郎と政之助の2人に分けました。設定はコンビニでしたが、たまたま僕がファミリーマートさんと仕事でご一緒していたので、万屋「家族商店」に(笑)。こちらも許可をいただいてセットをファミマ色にしました。台本ができたのは撮影1週間くらい前でした。

幸四郎 現場も大変でしたよね。

猿之助 松竹で歌舞伎にかかわる人は映像にそれほど詳しくないし、現場を仕切るADというか助監督もいない。僕がやらなきゃいけなくなるのは、目に見えていた(笑)。今回出演してくれた市川中車さん(俳優の香川照之さん)と幸四郎さんと、映像の世界で仕事をしている人が3人いたから、力を合わせてなんとかなりました。