『弥次喜多』で世界に挑戦したい

猿之助 そういえば中車さんは、歌舞伎に関しては息子の團子同様に習う立場なのだけど、映像作品となるとしっかり教えていました。「ここにカメラがあるんだから、その目線はおかしい」とか。親子の会話が微笑ましかったですね。

幸四郎 染五郎は、自分の演じる梵太郎が、家が没落してすっかりグレた金髪の不良に変わっていたから戸惑っていたね。ゴツゴツした指輪とマニキュアもつけて。マニキュアは僕がイオンに寄って3本1000円で買っていったもの。十返舎一九の『東海道中膝栗毛』は、今まで映画とか漫画とか、いろいろなものに大胆にアレンジされているけれど、それだけ懐が深い作品というか──。

猿之助 ようは弥次さんと喜多さんで旅すりゃあいいんだから、いろいろな展開が可能なんです。今回は、『弥次喜多』の歴史上、最長距離の旅になるんじゃないかな。

幸四郎 「行ったことのないところに行ってみよう」という好奇心に溢れた2人だから、時代すら飛び越えてどこにでも行けるんだね。それにしても、10年以上前にパンデミックをテーマにした芝居がすでにあったことはもちろん、それを『弥次喜多』でやろうと思いつく猿之助さんがすごい……。

猿之助 今回の作品は、世界配信したら絶対にウケるって思う。世界中の人が同時に同じことを体験するって、そうあることじゃないから。それも踏まえて、外国映画みたいな始まりにしてみたんです。英語でオープニングクレジットが流れて、英語のナレーションが重なって……それで、ハッと気づいたんだけど、市村竹松さんや尾上音蔵さんは英語が堪能なんだよね。歌舞伎役者っぽいせりふ回しで吹き替えをやったらいいんじゃないかな。

幸四郎 今回の『弥次喜多』を観て、「これが歌舞伎なの?」と思う人もいるかもしれないけれど、僕はそもそも、「歌舞伎」にこれという定義はないと思っている。時代に即して新しいものを取り入れて、400年続いてきたわけだから。

猿之助 正直、観て面白ければ、それでいいと思うんですよ。