爽やかなにおいがしたの

はいり においで言うと、映画が終わってお客さんが出てくるでしょう。そのとき、もうにおいでわかるんですよ、いい映画か悪い映画か。これだけは、絶対に本当。

清水・仁 へぇー!

 エンドロールになっても、最後までお客さんが残っていると満足度が高いって言いますよね。お客さんの足取りとかですか?

はいり そういうのもあるけど、本当ににおいだけ。前に若い男の子と2人で掃除してたら、ちょうど映画が終わってお客さんが出てきたんです。「あれ、この映画、いい映画なんじゃない?」って2人で顔を見合わせました。なんか爽やかなにおいがしたの。

 2人ともそれを感じたっていうのがすごい。

はいり 「これ、観る気なかったんだけど、観てみようかな」「僕もそう思います」って言い合って観たら、本当にいい映画だった。

清水 つまらないのもわかるの?

はいり わかります。客席に座ってても感じますね。

清水 我慢したストレスがにおいになって出てくるのかなあ。

はいり 「みんな寝たな」っていうのもにおいになる気がしますね。

 枕のにおいみたいなものかな。うちでは、枕のにおいを「お父さん唐揚げ」と呼ぶんですけど。

清水 え、なんで唐揚げ?

 10年くらい前、「お父さんの枕、お父さんを唐揚げにしたようないいにおいがする」って子どもが言い出して。もう言われなくなりましたけど。そういえば演劇の感想も、楽屋にきた友達のフェロモンで悟るときありますもんね。

清水 はいりさんの嗅覚は、長年映画館にいたから身についたスキルだなあ。だって、昔からもぎりのバイトをしてたんだよね。

はいり 映画がたくさん観られると思って。もぎったあとに途中入場して映画観て、また次の映画がはじまる前にもぎって……というだけの楽ちんなバイトです。

清水 もぎってて楽しいの?

はいり 楽しい……。あ、楽しいもありますけど、映画館って不思議な人が集まるところでもあって。映画は観ないのに、毎日必ずトイレにくる人とか、1番目に並ばないと入れない人とか。だから私は、不思議な魅力を持つ映画館の界隈でウロウロしてるのが好きなんだろうな、と思います。

清水 確かに、ちょっとややこしい人って映画館が呼ぶのかも。昔、私の友人もバイトしてたんだけど、毎回チケットをいったん股間につけてから渡すお客さんがいるって嘆いてた。

はいり いまは「映画館に痴漢なんているわけない」と思う人が多いですけど、昔はいくらでもいましたよね。よくネタで言うのが、「息子が具合悪くなったんで、外に出してもいいですか」というお客さんに、「どうぞ」と返事したらペロッと出されたっていう。(笑)

 あ、そっちの息子。

清水 あははは。そんなところとわかっていても好きな場所って、なかなかないよね。いまはどれくらいのペースでもぎってるの?

はいり 多いときは週に数回とか。自分が映画を観るタイミングもあれば、近所なので買い物に出たついでに寄ることも。

〈後編につづく