『婦人公論』1月26日号の表紙に登場している坂東玉三郎さん(表紙撮影:篠山紀信)

モノ作りに時間をかけて向き合う

2020年3月より、新型コロナウイルスの感染拡大のため歌舞伎の公演はすべて中止となり、私も舞台に立てず、ひたすら自宅で過ごしていました。もともと、あまり外出しないほうですが、「出かけていい」と言われて出かけないのと、「出かけてはいけない」と言われて出かけないのでは、精神的にずいぶん違うものですね。

舞台から離れていた期間は、自分で決めた1日のプログラムに沿って過ごすようにしていました。役者にとって一番困るのは、家にこもっている間に身体が動かなくなること。自宅でできることは何かと考え、1日に2曲は舞を踊ることを日課にしました。

それから、食べすぎに気をつけ、人様があまり歩いておられない時間帯に散歩をすることも肥満防止のために取り入れて。また、規則正しい生活が乱れないように、夜更かしはせず、よく寝ていましたね。

すべてを忘れて没頭できる踊りと同様に、憂いを忘れさせてくれたのが陶芸でした。陶芸は20年ほど前から続けていますが、以前は忙しいことを理由にそれほど時間をかけず、数日で仕上げてしまっていたのです。そこで、今回はじっくり時間をかけて土に触れ、お抹茶のお茶碗を作りました。やはりモノ作りは時間をかけて向き合わなくてはダメなのだと、改めて気づかされました。

また自粛期間中に観たもので印象に残っているのは、世界的ベストセラー『サピエンス全史』を書かれた歴史学者のユヴァル・ノア・ハラリさんや、海外の経済学者などのインタビュー番組で、これはとても参考になりました。広い視野で物事を捉える学者のお話を聞くと、とにかく慌てても仕方がない、焦って判断を間違えないことが大切だと、冷静になることができましたから。