「できるだけ少ない人数で上演でき、しかも今までにはない新しいものを皆様に楽しんでいただきたい。そんな思いで、映像と舞踊を組み合わせた公演に挑戦しました。」(撮影: 岡本隆史)

すべてのことを冷静に受け止めて

8月から、歌舞伎はソーシャルディスタンスを保ったうえで再開されることとなり、9月、10月と私も歌舞伎座に立つことができました。できるだけ少ない人数で上演でき、しかも今までにはない新しいものを皆様に楽しんでいただきたい。そんな思いで、映像と舞踊を組み合わせた公演に挑戦しました。

普段お客様が見ることのない奈落や舞台裏、楽屋などを私がご案内する、《映像によるバックステージツアー》は、初の試み。せっかく皆様に足を運んでいただいたのですから、この時期でないと観られないものをご提供したかったのです。

歴史を振り返ってみると、スペイン風邪やコレラ、ペストなど、さまざまな感染症のパンデミックがありました。いつの時代もこういうことはありうるのですね。だから今後も、今回のことを教訓にしていかなくてはならないでしょう。大勢様にいらしていただく仕事をしている私たちが、知っておくべきである新たなマナーを学んだ気がします。

実際、他人事ではないのです。私自身、12月の歌舞伎座の公演を控えて、感染された方の濃厚接触者と認定を受けてしまったため、初日から舞台に立つことができませんでした。

代役を勤めてくださった尾上菊之助さんとは、電話でご相談し、すべてお任せして再びステイホームの時期を過ごした次第です。その後の4度にわたる検査の結果、陰性であることがわかりましたので、途中から復帰させていただきました。

今年はなんとか、感染が落ち着いてほしいものです。それまでの間、すべてのことを冷静に受け止め、何があろうとバタバタせず、自分のなすべきことを粛々と行っていかなければ。そして、舞台だけは、皆様に苦しい現実を忘れていただくひとときとしてご提供したい、そう思っております。

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