政府の通達で形勢は一気に変わる
そんなある日。政府が、「グレーゾーン金利の廃止」という金融政策を打ち出した。貸金業の高金利を是正するもので、法外な金利に困窮する利用者への救済措置だ。金融業者は慌てた。従弟もその一人だった。取りすぎた利息の返還で、あっという間に会社の金庫は空っぽに。自分の預金もつぎこむありさまだ。
そんなとき、従弟から電話があった。めったにないことなので、私は不審の念を抱く。案の定、私の夫に「保証人になってほしい」と懇願してきた。銀行から融資を受けたいのだという。夫は大手企業の社員だった。高給取りではないが、会社の信用はある。だが、夫はきっと断るだろう。それでも、何度も電話されては困るので、私は一応夫に伝えた。
「私たちはつましい暮らしのなかで、やっと人並みのゆとりと信頼を得た。それをふいにする義理はない。若いときに贅沢三昧をし、貯金が底をついたから融資してくれとは、あまりに虫がよすぎる。今の彼の生活は、自業自得だ」
というのが、夫の返事だった。
「いえ、融資してくれとは──。ただ、保証人になってほしいだけみたいよ」
と私が言うと、
「同じことだ。いっそ、100万円貸してくれとでも言われたほうがマシだ。銀行から何千万も借りて彼が支払えなかったら、保証人になった私たちが負うことになるのだから」
と答えて、それっきり黙ってしまった。
従弟からは「変なことを頼んで悪かった」と謝罪があった後、連絡が途絶えてしまう。ふと、彼と遊んだ子どもの頃のことを思い出した。一緒にドジョウ捕りや、ザリガニ釣りを楽しんだものだった──。