撮影◎帆刈一哉
かつて、辣腕編集者として何作ものベストセラーを手がけた山口ミルコさん。会社をやめてからはフリーの立場で編集や執筆をしてきた彼女が、退社して10年たったとき、書いてみたいと思ったテーマが「会社と私」だったという。ときは平成、男女雇用機会均等法のもとで絵に描いたようなバリキャリだった当時の自分を、山口さんはどう描いたのか(構成:古川美穂 撮影:帆刈一哉)

ボスとの出会いから出版の世界へ

「ボスと彼女のものがたり」という副題で、2018年4月から『婦人公論』で連載していたものを書籍化しました。「会社と私」をテーマに、自分の編集者時代を振り返り、バブル時代のキャリアウーマンたちのインタビューを織り込んだノンフィクションです。働く女性の目から見た「平成史」を描くという、他にはない本になったと思います。

1989(平成元)年、外資系損保会社でOLをしていた私は、文芸誌の名物編集長だった「ボス」との出会いをきっかけに、出版社へ転職します。

私は編集者の仕事が大好きになり、ずっと一点の曇りもなく、ボスを信じて働いていました。契約社員から正社員へのオファーを受けたときは会社に嫁ぐような覚悟と喜びがありましたね。その後、94年、ボスが立ち上げた新しい出版社へ移りました。

がむしゃらに働き続けた結果、いくつかのベストセラーを世に出す幸運にも恵まれました。けれど世の中と会社が飽和点へと向かっていく中で、会社と自分の歯車が少しずつ嚙み合わなくなっていたことには気づいていなかった。日本経済がリーマン・ショックの影響下にあったある日、突然会社から“無言”の戦力外通告を受けたのです。

「がんばれば報われる」と、会社というものを信じ切っていた私は、まさか自分が会社を辞めるとは、と愕然。“個人的リーマン・ショック”状態でしばらく打ちのめされていました。それから闘病やフリーでの編集・執筆、大学の非常勤講師などさまざまな経験を経て、10年。「あの時代はなんだったのか」を書いてみたいと思っていた中、連載の機会をいただきました。

いわゆる日本の「金融バブル」は1990年前後の株価が高騰した時代を指すことが多いですが、この本では自分が出版社に入った平成元年=1989年からリーマン・ショックまでをひっくるめてバブルとしています。バブルは人の希望や欲望によって膨らみ、動き、はじけて消えてゆきます。ただの幻想であったかどうかは後にならないとわからない。