『動物園・その歴史と冒険』溝井 裕一・著/中公新書ラクレ

帝都を震撼させた「クロヒョウ脱走事件」

その後、動物園には1924年にオスゾウの「ジョン」とメスゾウの「トンキー」、35年にメスゾウ「ワンリー」(花子)がやってきた。このうち、ジョンは暴れゾウとしてあつかいに困ったが、トンキーとワンリーは芸をおぼえて人気者となっていく。

「クロヒョウ脱走事件」も悪名高い。1936年にシャムから贈られてきたのだが、天井にあったごくわずかな隙間から脱走し、帝都を震撼させた。幸い、地下水路にいるところを発見され、だれにも危害をくわえないうちに捕獲できたが、この年の三大事件といえば、陸軍青年将校がクーデターをおこした「二・二六事件」、女性が情夫の陰部をきりとって逃げた「阿部定事件」、そしてクロヒョウ事件である、などといわれるはめになった。

『上野動物園百年史』には、そうしたさまざまな事件が列挙されているが、同園はそれでも着実に発展をとげ、とくに1924年に東京市に下賜されてからは、ごく一部を残して飼育舎はすべて刷新された。

トラ、ライオン、ヒョウがいる「猛獣舎」(屋内施設と屋外施設がセットになっていた)、フライング・ケージ型の「大水禽舎」、堂々とした「ゾウ舎」、ハーゲンベック動物園(後述)にならって柵を撤去した「ホッキョクグマ舎」や「サル山」などが誕生し、いかにも動物園らしい外観を備えるにいたっている。