恵方という考え方は昔からある。恵方とは正月に神が来訪する方角のことをさす。恵方は毎年変わる。その年の恵方にあたる神社に参拝に出かけることが恵方参りで、これは昔から行われていた。少なくとも、江戸時代には行われていた。

1838年に刊行された『東都歳事記』では、元日の項目のなかに、「恵方参諸社」と記されている。これよりも前、1803年に刊行された『増補江戸年中行事』では、正月六日のところに、「年越祝ふ恵方氏神参り・門松おさめる」と出てくる。このように、恵方という考え方は江戸時代からあり、恵方参りが行われていたが、節分に恵方巻を食べるというしきたりは、相当に新しい。

恵方巻の丸かぶりのもとは花柳界にあるという説がある。これについては賛否両論あり、今のところ決着がついてはいない。

しきたりは、生活のなかに組み込まれている。したがって、生活が変化していくと、それまでのしきたりが、時代とそぐわないものになっていったりする。「節分」の変遷も一例と言えるだろう。

昭和の時代には、節分にまく豆を年の数だけ食べるということが、子どもには一つの楽しみになっていた。だが、食べ物をめぐる環境がよくなった現代においては、豆を食べるだけでは物足らない。そんな思いを皆が抱いていたときに、豪華な恵方巻を食べると縁起がいいという、新しいしきたりが考案され、それはそれで歓迎された。近年では、恵方巻が大量に売れ残ってしまうということが、かえって社会問題になったりもしている。