蜂工場

著◎イアン・バンクス
訳◎野村芳夫
Pヴァイン 2200円

最終章で明かされる
主人公の衝撃的事実

まずは英国作家イアン・バンクスの衝撃的デビュー作『蜂工場』が完全版として蘇り、こうして読めることを喜びたい。1984年の発表当時、英国文学界を騒然とさせたこのゴシック・ミステリーは、その後も版を重ね、いまや現代英国文学の古典にも数えられる。訳者あとがきによれば、バンクスは重版の過程で何度か改訂を施しているという。本書は、今は亡き著者の最終改訂版に「著者序文」を追加した完全版の邦訳である。

舞台はスコットランドの小さな島。16歳のフランクは父親と二人で暮らしていた。そこに精神病院に入っていた兄のエリックが脱走した、という知らせが入るところからはじまる。

そのころフランクは学校にも行かず、屋根裏部屋や島のあちこちで、自ら考え出した呪術的儀式にのっとり、小動物をいたぶりながら殺すという日々を送っていた。一見、今でいう中二病真っ盛りと思わせるフランクだが、暴力と死が支配する狂気の世界に生きていることがわかってくる。閉じられた世界で彼は神であり独裁者だ。その過激で残忍なシーンが続く。しかしそれを凌駕するのが、先鋭的かつ才気みなぎる言葉、緻密な描写である。しんとして読み入ってしまい、時に詩情が溢れ出てくるのだ。

なぜ彼は残酷な営みを続けるのか。最終章で明らかにされるその理由はあまりに衝撃的だ。しかし、すべての疑問が解消され、納得のいく結末でもある。ショックのまま再読することになるのだが、至るところに、結末のための伏線をしのばせているのに気づかされる。それはまるで時限爆弾装置のなかに、理路整然と張り巡らされた電子回路のようで、さらに戦慄し、固唾をのんでしまうのだ。